介護人材不足は深刻ですが、適切な対策で人材確保と定着は可能です。
2025年に32万人、2040年には69万人もの介護人材が不足すると予測されています。福祉事業所にとって、人材確保は経営存続に直結する最重要課題です。しかし、多くの事業所が「何から手をつければよいか分からない」と悩んでいるのが現状です。
本記事では、福祉経営に携わる管理者向けに、介護人材不足を解決する具体的な3ステップを解説します。20年以上福祉現場で人材マネジメントに携わってきた経験から、予算規模別・緊急度別に今日から実践できる施策をお伝えします。
この記事を読むことで、人材不足の本質的な原因、採用と定着の両面から取り組むべき施策、小規模事業所でも実現可能な低コスト対策が分かります。2040年を見据えた持続可能な福祉経営を実現しましょう。
介護人材不足の現状とは?2025年・2040年の衝撃的な予測データ
介護人材不足は数字で見ると、その深刻さが一層明らかになります。厚生労働省の推計によれば、2023年時点で約233万人の介護職員が必要とされていますが、実際の職員数はそれに届いていません。
2025年には約243万人、2040年には約280万人の介護職員が必要となり、現在の人材供給ペースでは2025年に約32万人、2040年には約69万人もの人材が不足すると予測されています。つまり、毎年5万人規模で新たな人材を確保し続けなければ、この不足を埋められません。
介護関係職種の有効求人倍率は3.97倍と、全職業平均の1.16倍を大きく上回ります。特に訪問介護では人手不足感が顕著で、81.4%の事業所が「人材が不足している」と回答しています。この数字は、3人採用したくても応募が1人しか来ない状況を示しています。
地域差も深刻です。東京都の有効求人倍率は7.65倍に達し、関東・近畿などの都市部では4倍以上が続いています。一方、地方でも2.5倍前後と高水準であり、「地方なら採用しやすい」という時代はすでに終わっています。
さらに見逃せないのが、介護職員の高齢化です。現在、介護従事者の19.2%が60歳以上であるのに対し、10〜20代はわずか6.2%です。団塊世代が75歳以上となる2025年以降、要介護者が急増する一方で、介護職員の定年退職も加速します。若年層の参入が進まなければ、人材不足はさらに深刻化するでしょう。
介護人材不足の3大原因と福祉事業所が直面する現実
介護人材不足には、構造的な原因と事業所レベルの原因があります。ここでは福祉経営者が対策を打つべき3つの原因を解説します。
原因1:賃金水準の低さと処遇への不満 介護福祉士の推定平均年収は約340万円で、日本の給与所得者平均460万円と比較して120万円もの開きがあります。体力を使う仕事でありながら、この賃金水準では「割に合わない」と感じる人が多いのも当然です。離職理由として「収入が少ない」と答えた人は15.0%に上り、処遇改善は急務です。
原因2:身体的負担と労働環境の厳しさ 介護従事者の29.3%が「身体的負担が大きい」と回答しています。入浴介助や移乗介助では腰や膝を痛めやすく、慢性的な腰痛に悩む職員は少なくありません。夜勤では少人数で多くの利用者に対応するため、肉体的・精神的な負荷はさらに増します。こうした負担の蓄積が、若年層の参入障壁となり、中堅職員の離職につながっています。
原因3:職場の人間関係と評価制度の不備 介護職の離職理由で最も多いのは「職場の人間関係」で18.8%を占めます。賃金よりも人間関係が離職理由のトップであることは注目すべき点です。背景には、評価制度の不備があります。「仕事ができる人」と「できない人」の差が給与や昇進に反映されず、頑張っている職員ほど不満を感じやすい構造があるのです。
これらの原因は相互に関連しています。低賃金が優秀な人材の流出を招き、人手不足が既存職員の負担を増大させ、それが人間関係の悪化を引き起こすという悪循環です。この循環を断ち切るには、複合的な対策が必要です。
今日から始める!介護人材不足を解決する実践的3ステップ
介護人材不足の解決には、「採用強化」と「定着促進」の両輪で取り組むことが重要です。ここでは、緊急度別・予算別に分けた3ステップを紹介します。
ステップ1:今日できる!既存職員の定着を最優先する(所要時間:週1回30分)
新規採用には時間とコストがかかりますが、既存職員の離職防止は今日から実行できます。1人の離職を防ぐことは、新たに1人採用することと同じ効果があります。
具体的な定着施策: まず、職員との対話の機会を増やします。週1回、15分程度の個別面談を実施し、業務の困りごとや人間関係の悩みを聞き取ります。「最近、仕事で困っていることはない?」「職場の雰囲気はどう?」といった簡単な質問で構いません。この対話が、離職の兆候を早期に発見する鍵となります。
次に、頑張りを認める仕組みをつくります。朝礼で「○○さんが利用者様から感謝の言葉をもらいました」と共有する、月間MVPを決めて表彰するなど、金銭的報酬以外の承認欲求を満たす工夫が効果的です。介護職は「感謝される」ことにやりがいを感じる人が多いため、この施策は非常に有効です。
つまずきポイントと対処法: 「忙しくて面談する時間がない」という声をよく聞きますが、離職後の採用・育成コストを考えれば、週30分の投資は決して高くありません。シフト調整で時間を確保し、管理者が率先して実施しましょう。
ステップ2:今月中に実行!評価制度と処遇改善で満足度を高める(初期投資:月10時間)
職員の満足度を高めるには、公平な評価制度と処遇改善加算の活用が不可欠です。
評価制度の整備: 簡易的でも構わないので、評価基準を明文化します。「利用者対応力」「チームワーク」「業務改善提案」など3〜5項目の評価軸を設け、半年ごとに自己評価と上司評価を実施します。評価結果を賞与や昇給に反映させることで、頑張った職員が報われる仕組みをつくります。
処遇改善加算の最大活用: 2024年6月に介護職員等処遇改善加算が一本化され、より取得しやすくなりました。上位の加算を取得することで、職員1人あたり月額6,000円相当のベースアップが可能です。まだ取得していない事業所は、今月中に申請準備を始めましょう。社会保険労務士に相談すれば、申請手続きも円滑に進みます。
小規模事業所向けの施策: 予算に余裕がない場合は、非金銭的報酬を充実させます。希望休の優先取得、誕生日休暇の付与、ユニフォームの質向上など、職員が「大切にされている」と感じる施策を優先しましょう。
ステップ3:3ヶ月以内に構築!採用強化とICT導入で体制を整える(初期投資:50〜100万円)
中長期的には、採用チャネルの多様化と業務効率化が必要です。
採用チャネルの拡大: ハローワークだけでなく、介護専門の求人サイト、人材紹介会社、SNS採用など、複数のチャネルを活用します。特に若年層にはInstagramやX(旧Twitter)での情報発信が効果的です。「先輩職員の1日」「利用者様との心温まるエピソード」など、介護の魅力を伝えるコンテンツを週1回発信しましょう。
外国人労働者の活用も検討します。特定技能「介護」では、2024年6月時点で36,719人が就労しており、2年前の3.5倍に増加しています。2025年4月からは訪問介護も解禁され、活用の幅が広がります。
ICT・介護ロボットの導入: 記録業務のデジタル化、シフト管理アプリ、見守りセンサーなど、ICTツールの導入で業務効率化を図ります。初期投資は50〜100万円程度ですが、国や自治体の補助金を活用すれば負担を軽減できます。介護ロボットは移乗支援機器から導入し、職員の身体的負担を軽減しましょう。
この3ステップを順次実行することで、人材不足の悪循環を断ち切り、採用と定着の好循環を生み出すことができます。
失敗しないための注意点と即効性のある対策
介護人材不足対策に取り組む際、よくある失敗例と対処法を紹介します。
失敗例1:採用だけに注力し、定着対策を怠る 新規採用に力を入れても、既存職員が次々と辞めていては穴の開いたバケツで水を汲むようなものです。対策として、採用と定着の予算配分を6:4程度にし、定着施策にも十分なリソースを割きましょう。
失敗例2:処遇改善加算を取得しても職員に還元しない 加算を取得したにもかかわらず、職員の給与に反映させない事業所があります。これは職員の不信感を招き、離職を加速させます。処遇改善加算は必ず職員に還元し、給与明細に「処遇改善手当」として明記しましょう。
失敗例3:ICT導入が目的化し、現場が混乱する システムの使い方が分からず、かえって業務負担が増えるケースがあります。対策として、導入前に職員向けの研修を実施し、操作に慣れるまでサポート体制を整えます。段階的に導入し、使いやすいツールから始めることも重要です。
よくある質問:介護人材不足対策の実務Q&A
Q1:小規模事業所でも人材確保はできますか?
できます。大規模施設と比べて給与面で劣る場合でも、「アットホームな雰囲気」「意見が通りやすい」など小規模ならではの強みをアピールしましょう。地域密着型の広報活動も効果的です。
Q2:外国人労働者の受け入れは難しいですか?
特定技能制度を活用すれば、比較的スムーズに受け入れ可能です。日本語能力試験N4程度の日本語力があれば業務に従事でき、受け入れ後の日本語教育支援も充実しています。登録支援機関を活用すれば、手続きの負担も軽減できます。
Q3:処遇改善加算の申請は複雑ですか?
2024年の一本化により、以前より申請しやすくなりました。社会保険労務士に依頼すれば、必要書類の準備から申請までサポートしてもらえます。費用は10〜30万円程度ですが、加算による収入増を考えれば十分に元が取れます。
Q4:ICT導入の費用対効果はどれくらいですか?
記録業務のデジタル化で、職員1人あたり月10時間程度の業務時間削減が期待できます。年間で120時間、時給換算で約20万円分の人件費削減効果があります。初期投資は2〜3年で回収可能です。
まとめ:介護人材不足を乗り越える3つのポイント
介護人材不足対策のポイントを3つにまとめます。既存職員の定着が最優先です。週1回の対話、頑張りの承認、公平な評価制度により、離職を防ぐことが最もコストパフォーマンスの高い施策です。処遇改善と働きやすさの両立も重要です。処遇改善加算を最大限活用し、ICT導入で業務負担を軽減します。多様な採用チャネルの確保が持続可能な経営の鍵です。求人サイト、SNS、外国人労働者など、複数の採用ルートを確保しましょう。
今日からできるアクション:明日の朝礼で「職員を大切にします」と宣言する。今週中に職員全員と15分の個別面談を実施する。今月中に処遇改善加算の取得状況を確認し、未取得なら申請準備を始める。
介護人材不足は深刻ですが、適切な対策により乗り越えることができます。職員が安心して長く働ける環境を整えることが、2040年を見据えた持続可能な福祉経営の土台となります。

