介護離職防止を実現する3ステップ|福祉事業所が今すぐ取り組むべき両立支援制度の活用法

福祉経営

介護離職は防げます。職場環境を整え、両立支援制度を周知することで実現可能です。

家族の介護を理由に毎年約10万人が離職している現実をご存じでしょうか。福祉事業所にとって、40〜50代の熟練職員の離職は現場の質の低下に直結する深刻な経営課題です。しかし適切な対策により、介護離職は防ぐことができます。

本記事では、福祉経営に携わる管理者向けに、介護離職防止のための具体的な3ステップと、2025年4月に義務化された両立支援制度の実践的な活用法を解説します。15年以上福祉現場で人材マネジメントに携わってきた経験から、明日から実践できる施策をお伝えします。

介護離職とは?福祉事業所が直面する深刻な人材流出リスク

介護離職とは、家族の介護を理由に仕事を辞めざるを得ない状況を指します。総務省の調査によれば、年間約10万人が介護・看護を理由に前職を離職しており、そのうち約7割が40〜50代の働き盛り世代です。

福祉事業所では、この世代が現場のリーダーや中堅職員として活躍しています。彼らが突然離職すると、利用者対応の質が低下し、残った職員の負担が増加します。特に小規模事業所では、1人の離職が事業継続に影響を与えかねません。

介護離職が起こる主な理由は3つあります。第一に、勤務先の両立支援制度の不足または周知不足です。制度があっても従業員が知らなければ意味がありません。第二に、介護保険サービスの利用方法が分からず、自分で全てを抱え込んでしまうケースです。第三に、職場に介護のことを相談しづらい雰囲気があることです。

さらに深刻なのが「隠れ介護者」の存在です。職場に介護のことを開示せず、疲弊しながら働き続けている職員が一定数います。彼らは突然「限界です」と離職を申し出るため、事業所側は準備する時間がありません。2025年には団塊世代が全員75歳以上になり、要介護者数はさらに増加します。福祉事業所こそ、率先して介護離職防止に取り組むべき立場にあります。

介護離職防止がもたらす3つの経営メリット

介護離職防止策は単なるコストではなく、福祉事業所の持続可能な経営を支える重要な投資です。

人材確保コストの大幅削減 1人の職員を新規採用するコストは、求人広告費、面接対応時間、研修費用などを含めると50万円以上かかることも珍しくありません。40〜50代の熟練職員が離職すると、その穴を埋めるには複数の新人を採用する必要があります。介護離職を1件防ぐことで、採用・育成にかかる数百万円のコストを節約できます。

利用者サービスの質の維持向上 福祉サービスの質は、職員の経験値と利用者との信頼関係に大きく依存します。長年担当してきた職員が突然いなくなると、利用者は不安を感じ、サービスの継続性が損なわれます。ベテラン職員が安心して働き続けられる環境を整えることで、質の高いサービス提供が可能になります。

職場全体のモチベーション向上 「この事業所は職員を大切にしてくれる」という実感は、職場全体のモチベーションを高めます。両立支援制度が実際に活用されている姿を見ることで、他の職員も「いざという時は自分も支援してもらえる」という安心感を持て、定着率の向上につながります。

今すぐ実践!介護離職を防ぐ3ステップの具体的方法

介護離職防止は、3つのステップで体系的に取り組めます。各ステップで「誰が・いつ・何を」するかを明確にすることが成功の鍵です。

ステップ1:従業員の介護リスクを把握する(月1回30分)

まず現状を知ることから始めます。毎月の定例ミーティングや個別面談の際に、家族構成や両親の年齢・健康状態を自然に確認しましょう。

具体的な把握方法: 年に1回、全職員向けアンケートを実施します。質問項目は「両親の年齢」「同居・別居の状況」「現在介護をしているか」「今後3年以内に介護が必要になりそうか」です。40歳到達者には個別に声をかけ、介護保険制度の資料を渡します。普段の会話で「ご両親お元気ですか?」と自然に聞く習慣をつけることも効果的です。

つまずきポイントと対処法: 「プライバシーに踏み込みすぎでは?」と躊躇する管理者が多いですが、「従業員を支援するため」という目的を明確に伝えれば理解されます。「介護のことは何でも相談してほしい」というメッセージを日頃から発信することが重要です。

ステップ2:両立支援制度を効果的に周知する(年4回各1時間)

制度があっても知られていなければ意味がありません。年4回、異なる方法で繰り返し周知することで、確実に情報を届けます。

効果的な周知方法: 40歳到達時には個別面談で介護休業制度のパンフレットを配布し説明します。年1回は全体研修で介護保険制度と両立支援制度の基礎セミナーを実施します。休憩室には「介護休業は93日まで取得可能」「相談窓口は○○まで」と大きく掲示します。メールやLINEで月1回、制度の具体例を配信することも有効です。

周知すべき重要ポイント: 介護休業93日は「介護に専念するため」ではなく「介護体制を整えるため」の期間です。介護休暇は年5日(対象家族2人以上なら10日)、1時間単位で取得可能です。介護休業給付金で休業前賃金の67%が支給されます。所定外労働の免除、時短勤務なども利用できること、地域包括支援センターが介護の総合相談窓口であることを伝えましょう。

ステップ3:柔軟な働き方の選択肢を増やす(初回20時間、運用は月2時間)

法定の制度に加えて、事業所独自の柔軟な支援策を導入すると効果が高まります。大規模な投資は不要です。

小規模事業所でも可能な施策: 介護が必要な職員の希望シフトを最優先で考慮します。週3日勤務や1日5時間勤務など、本人の状況に応じて調整します。事務作業や記録業務を週1日在宅で対応可能にします。デイサービスの急なキャンセルなどに柔軟に対応し、早退・遅刻を認めます。月1回30分、介護中の職員が情報交換できる交流会を設けることも効果的です。

福祉の現場では「利用者対応が最優先」という意識が強く、職員自身が遠慮しがちです。しかし「職員が健康でなければ利用者を支えられない」という視点を組織全体で共有することが重要です。管理者が率先して「介護休暇を使って当然」という雰囲気をつくりましょう。

失敗しないための3つの注意点と対策

介護離職防止に取り組む際、よくある失敗例と対策を紹介します。

失敗例1:制度を作っただけで満足する 就業規則に介護休業制度を盛り込み、パンフレットを作成して終わり、というケースが非常に多いです。対策として、定期的に具体的な事例を交えて繰り返し説明する機会を設けます。「実際に○○さんが介護休暇を使って、ケアマネジャーとの打ち合わせに行きました」といった実例を共有すると、自分事として捉えやすくなります。

失敗例2:介護のことを言い出しにくい雰囲気 「人手不足なのに休まれたら困る」という空気が職場にあると、従業員は介護のことを言い出せません。対策として、管理者が定期的に「何か困っていることはないか」と声をかけ、相談しやすい関係性を築きます。朝礼や会議で「介護と仕事の両立を応援します」と明言し続けることも効果的です。

失敗例3:隠れ介護者の存在に気づかない 介護をしていることを職場に伝えていない「隠れ介護者」は想像以上に多く存在します。遅刻や早退が増えた、疲れた表情をしている、残業を極端に嫌がるようになった、急な休みが増えたなどのサインを見逃さないようにします。これらのサインに気づいたら、個別に「最近、様子が違うけど大丈夫?」と声をかけましょう。

よくある質問:介護離職防止の実務Q&A

Q1:介護休業は何日取得できますか?

対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割取得できます。最初に30日、追加で40日、さらに23日というように柔軟に利用可能です。

Q2:介護休業中の給与はどうなりますか?

企業が支払う義務はありませんが、雇用保険の介護休業給付金により、休業開始前賃金の67%が支給されます。

Q3:パートタイム職員も介護休暇を取得できますか?

2025年4月の法改正により、パートタイムや契約職員も含め、ほぼすべての職員が取得可能です。

Q4:小規模事業所では対応が難しいのでは?

早期把握が重要です。3ヶ月前に「来月から介護休業を取りたい」と言われれば、代替職員の手配や業務調整の時間があります。突然の離職よりも、計画的な休業の方が現場への影響は少なくなります。

まとめ:介護離職防止は福祉事業所の未来を守る投資

介護離職防止のポイントを3つにまとめます。早期把握が最重要です。従業員の家族状況を日頃から把握し、介護リスクを早期に発見することで、計画的な対応が可能になります。制度周知は繰り返しが鍵です。年4回、異なる方法で繰り返し周知することで、「いざという時は使える」という認識を浸透させます。柔軟な働き方と相談しやすい雰囲気が成功の秘訣です。

今日からできるアクション:明日の朝礼で「介護と仕事の両立を応援します」と宣言する。今週中に40歳以上の職員リストを作成し、面談スケジュールを組む。来月の全体会議で介護休業制度の説明時間を15分設ける。

「介護のことは相談してほしい」というメッセージを発信し続けることが、明日からできる最初の一歩です。従業員を大切にする姿勢が、必ず事業所の未来を明るくします。

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