介護士の人手不足、2026年度240万人必要も資格取得進まぬ矛盾|課題と対策

福祉経営

2026年度には約240万人の介護職員が必要ですが、これは「資格不問」の統計です。

一方で、介護職として本来目指すべき「介護福祉士」という国家資格の取得は、経済的負担や時間制約により進みにくい状況が続いています。有効求人倍率3.88倍という採用困難性の中で、介護福祉士資格保有者は全体の何割を占めるのでしょうか。

本記事では、介護士(資格取得者)の不足がなぜ解決されないのか、給与・キャリア・資格取得支援の連鎖的課題を掘り下げます。事業所が「質の高い介護士」を確保するために今から実施すべき対策を、具体的に解説します。


  1. 介護職員240万人と「介護士(資格保有者)」の大きなギャップ
    1. 必要数240万人の内訳:資格別構成比が明らかになっていない危機
    2. 介護福祉士の勤続年数が6年(取得条件10年より短い)という致命的課題
    3. 初任者研修→実務者研修→介護福祉士のキャリアラダーが機能不全
  2. 介護士(資格取得者)が増えない構造的原因
    1. 原因1:資格取得費用の高さと職場補助の不足
    2. 原因2:資格取得と給与改善の「見える化」不足
    3. 原因3:資格取得時間の確保困難(シフト制の職場の宿命)
    4. 原因4:試験合格率の低さと受験費用の負担
  3. 事業所が「介護士(資格保有者)」を増やすための3段階戦略
    1. ステップ1:キャリアパス明示と処遇改善加算連動(準備期間:1~2ヶ月)
    2. ステップ2:資格取得支援制度の整備(導入期間:2~3ヶ月)
    3. ステップ3:潜在介護士(資格保有で離職中)の復職戦略(実行期間:継続的)
  4. 外国人材受け入れと資格要件の整理
    1. EPA(経済連携協定)介護福祉士:高スキル即戦力
    2. 特定技能「介護」:N4日本語レベルで即戦力
    3. 留学生ルート:長期的な人材育成
  5. よくある質問(FAQ)
    1. Q1:介護福祉士資格取得と「勤続10年以上」という条件設定は、本当に機能しているのか?
    2. Q2:資格取得補助を全額事業所負担にすると、経営圧迫しないか?
    3. Q3:潜在介護福祉士の復職成功率は本当に高いのか?
    4. Q4:外国人材受け入れは、日本人採用と並行できるのか?
    5. Q5:初任者研修と実務者研修の「乗り換え支援」をしない事業所が多いのはなぜ?
  6. まとめ

介護職員240万人と「介護士(資格保有者)」の大きなギャップ

必要数240万人の内訳:資格別構成比が明らかになっていない危機

厚生労働省の推計「2026年度に約240万人必要」という数字は、介護保険給付対象のすべての介護職員を含みます。つまり、無資格者も含めた推計です。

ところが、実務的には「無資格で対応可能な業務」と「資格必須の業務」に分かれています。特別養護老人ホームなど入所系施設では、配置基準により「介護福祉士またはそれに準ずる資格者」の配置が求められます。訪問介護では、サービス提供責任者(資格必須)の役割が不可欠です。

つまり、「全240万人が無資格で対応可能」ではなく、その内相当数(推定30~50%)は何らかの資格保有が望ましい計算です。その場合の実不足数は、統計数字以上に深刻化している可能性があります。

介護福祉士の勤続年数が6年(取得条件10年より短い)という致命的課題

政府は、勤続10年以上の介護福祉士に月額平均8万円の処遇改善を実施すると発表しました。しかし、介護労働安定センターの調査では、介護福祉士の平均勤続年数は約6年に過ぎません。つまり、大多数の介護福祉士が「10年勤続」の要件に達する前に離職しているのです。

この現実が意味するのは、「処遇改善の条件設定が現実離れしており、実際には恩恵を受ける人がほとんどいない」ということです。結果として、「介護福祉士資格を取得する動機」が減退し、資格取得希望者の減少につながっています。

初任者研修→実務者研修→介護福祉士のキャリアラダーが機能不全

本来であれば、無資格者が初任者研修(130時間)を経て、実務者研修(450時間)に進み、3年実務経験後に介護福祉士試験受験というキャリアラダーが想定されています。しかし、各段階での「時間的・経済的負担」が大きく、完走する人材がごく少数です。

特に、初任者研修修了直後の給与改善幅が明確でない場合、「わざわざ450時間の実務者研修を受けるメリット」が感じられず、多くの職員が脱落します。


介護士(資格取得者)が増えない構造的原因

原因1:資格取得費用の高さと職場補助の不足

介護福祉士養成施設(2年課程)の費用は、入学金+授業料で総額150~200万円程度に及びます。通学しながら働く「実務者研修」(60~90万円)も、相当な経済負担です。

事業所による補助制度がある施設は存在しますが、全事業所の何割かは「自己負担」を前提としています。特に小規模事業所では「補助予算がない」という理由で、補助制度を提供できないケースが多くあります。

政府も修学資金貸付制度(月5万円、入学・卒業時20万円)を用意していますが、「卒業後5年介護職継続で返還免除」という要件があるため、転職を考える人にはハードルが高いのです。

原因2:資格取得と給与改善の「見える化」不足

介護福祉士資格を取得しても「手当」が明確でない事業所も存在します。「勤続年数で昇給」という仕組みがあっても、「資格取得による昇給幅」が明示されていない場合、動機付けが弱まります。

処遇改善加算Ⅰ取得時に「キャリアパス要件」が定められましたが、実装がまちまちです。加算要件に「職員に対するキャリアパス明示」が必須なのに、実際には概略的な説明に留まっている事業所も多くあります。

原因3:資格取得時間の確保困難(シフト制の職場の宿命)

介護職は24時間365日体制のため、シフト制勤務が必須です。実務者研修や通信教育での資格取得を目指そうとしても、夜勤や休日出勤により「定期的に講座に参加する」ことが物理的に困難です。

e-learning対応の研修も増えていますが、「仕事終わりに自学」という選択肢は、既に疲弊している介護職員にとって非現実的です。事業所がシフト調整により「講座受講時間」を確保できるかが、資格取得を分ける大きな要因になっています。

原因4:試験合格率の低さと受験費用の負担

介護福祉士国家試験の合格率は、ここ数年60~65%程度で推移しており、「3人に1人は不合格」という厳しい現実があります。実務者研修を修了し、3年以上働いた人が受験してもこのレベルなため、「取得できないリスク」が存在します。

受験費用(約15,000円)と対策講座費用(10~20万円)を自己負担する場合、「不合格になったら無駄」というリスク回避姿勢が生まれやすくなります。


事業所が「介護士(資格保有者)」を増やすための3段階戦略

ステップ1:キャリアパス明示と処遇改善加算連動(準備期間:1~2ヶ月)

実行内容

まず、処遇改善加算(できればⅠ取得)の「キャリアパス要件」を具体的に整備します。以下を明文化します。

「初任者研修修了→月給+3,000円」 「実務者研修修了→月給+5,000円」 「介護福祉士資格取得→月給+8,000円+手当2,000円」

数字を明示することで、「資格取得のメリット」が可視化されます。加えて、処遇改善加算の効果で「この金額が実現可能であること」を伝えることが重要です。

ステップ2:資格取得支援制度の整備(導入期間:2~3ヶ月)

実行内容

以下を「組み合わせ」で提供することで、職員の資格取得動機が格段に向上します。

費用補助
初任者研修10万円、実務者研修30万円、介護福祉士養成課程100万円(上限)の事業所負担を明示。修学資金貸付(返還免除制度)と並行利用で、職員負担を最小化します。

シフト調整
講座日程が決定したら、他職員のサポートを組織して「強制的に」シフトを確保します。「仕事との両立」を可能にするのは、事業所の責務です。

合格支援
国家試験前3ヶ月は、事業所が対策講座(外部委託または内部講師)を提供し、複数回の模擬試験を実施します。1回の試験で合格できる確率を高めることで、費用対効果が改善されます。

ステップ3:潜在介護士(資格保有で離職中)の復職戦略(実行期間:継続的)

実行内容

介護福祉士資格を保有しながら、育児や転職で業界を離れた人材は相当数存在します。この層へのアプローチが、最も効率的な「介護士確保」手段です。

復職向けジョブカフェ参加
ハローワークや福祉人材センターが実施する「潜在介護職復職セミナー」に参加し、直接対話する。「働きやすさが変わった」というメッセージが有効です。

時短・限定勤務枠の設置
潜在介護士の多くは、育児との両立を理由に退職しているため、「月~金の日中のみ」「週3日から」といった柔軟な働き方を提示します。実際、この環境設定で復職した介護福祉士の定着率は、新規採用者より20~30%高いという事例があります。

ブランク対応研修
離職期間が長い場合、最新の介護技術やICT活用が変わっていることがあります。2週間程度の「復職ブートキャンプ」を用意し、スキルリカバリーをサポートします。


外国人材受け入れと資格要件の整理

EPA(経済連携協定)介護福祉士:高スキル即戦力

インドネシア・フィリピン・ベトナムとのEPA枠組みで、既に母国で介護資格を持つ人材が来日できます。受け入れ側の手続きは複雑ですが、日本語研修と実務経験を経て、介護福祉士国家試験に合格すれば「永続的な在留」が可能です。

特定技能「介護」:N4日本語レベルで即戦力

2019年に新設された在留資格で、基本的な日本語(N4レベル)と介護の基礎知識があれば就労可能です。特定技能1号では5年間の在留が可能で、その後介護福祉士資格取得により在留資格「介護」に変更できます。

小規模事業所でも導入しやすく、実際に採用している事業所が増えています。

留学生ルート:長期的な人材育成

福祉系高校や養成施設の留学生コースを利用すれば、介護福祉士資格取得と同時に就労へ進む流れが可能です。新育成就労制度でも、3年間で「特定技能1号相当」に育成する仕組みが整備されています。


よくある質問(FAQ)

Q1:介護福祉士資格取得と「勤続10年以上」という条件設定は、本当に機能しているのか?

A:現状では機能していません。平均勤続年数が6年なのに、10年超の処遇改善という設計は、「大多数には無関係」という状態です。むしろ、「3年資格取得→その時点で手当付与」という実務的な設計が、動機付けには有効です。

Q2:資格取得補助を全額事業所負担にすると、経営圧迫しないか?

A:適切な処遇改善加算取得で、その財源が確保できます。加算Ⅰ取得要件に「キャリアパス整備と研修実施」があるため、これと連動させることで、補助費用を加算原資から捻出することが可能です。

Q3:潜在介護福祉士の復職成功率は本当に高いのか?

A:高いです。既に資格と実務経験があるため、新規採用者の育成時間が不要になります。復職時の「適応期間は3ヶ月」程度で、その後の定着率は80%を超える事例が報告されています。

Q4:外国人材受け入れは、日本人採用と並行できるのか?

A:できます。むしろ、日本人採用が進まない中では「並行必須」です。言語研修や生活支援のコストがありますが、介護職員不足の深刻さに比べれば許容範囲です。

Q5:初任者研修と実務者研修の「乗り換え支援」をしない事業所が多いのはなぜ?

A:職員が実務者研修に進むと、より高度な業務(サービス提供責任者候補など)への道が開かれ、他事業所への転職リスクが上がると懸念している事業所が存在します。ただし、この短視眼が「介護士不足の深刻化」を招いているという認識が不足しています。


まとめ

2026年度に必要な「240万人の介護職員」という統計数字は、「資格不問」です。しかし、実務的には相当数が「介護福祉士」などの資格保有を必要としており、その確保は統計数字以上に深刻な課題です。

介護福祉士の平均勤続年数が6年(処遇改善条件10年より短い)という矛盾、資格取得費用の高さ、試験合格率の低さが、「資格を目指さない悪循環」を生み出しています。

事業所が今からできることは、処遇改善加算とキャリアパスを連動させ、資格取得支援制度を実装化し、潜在介護福祉士の復職環境を整備することです。同時に、外国人材受け入れも「介護士確保」の重要な選択肢になります。

2026年度までの限られた期間で、「介護士(資格保有者)」を確実に増やす組織的対応が、事業所の経営継続と利用者サービス品質維持を約束する最後の投資機会です。

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