リード
高齢者の数が増え続けているにもかかわらず、介護・福祉事業者の倒産・廃業件数は過去最多水準に達している。
需要があるのになぜ施設は消えるのか。
福祉施設研究所(株式会社日比野設計)が実施した調査から、利用者家族が施設に求めるものが「医療・介護の質」だけにとどまらないことが明らかになった。
需要拡大と倒産増加という矛盾
総務省の統計によれば、日本の65歳以上の人口は過去最多の水準に達しているが、一方で東京商工リサーチのデータは、福祉・介護事業の倒産・休廃業件数もまた記録的な水準を更新していることを示している。
この矛盾の背景には、慢性的な人材不足、光熱費や人件費の高騰、そして価格転嫁が難しい介護報酬(公定価格)という構造的な制約がある。
コストが上昇しても収益に反映しにくいため、経営体力の乏しい小規模事業者から順に撤退を余儀なくされている。
さらに、2040年頃をピークに高齢者人口は減少に転じると推計されており、現在でも淘汰が進むなかで、今後は施設間の競争がいっそう激化することが予想される。
家族が施設に求めるもの──1,055人への調査
この問題意識をもとに、福祉施設研究所は2026年1月、高齢者の家族をもち、特別養護老人ホーム(特養)に関心のある一般生活者1,055名を対象にした意識調査を実施した(調査会社:株式会社PRIZMA)。
結果は、施設運営の現場にとって注目すべき内容を含んでいた。
まず、特養の空間環境が入居者の心身状態に影響するかという問いに対し、95%が「影響する」と答えた。
施設の設計や雰囲気が生活の質に直結するという認識が、すでに一般的なものとなっていることがわかる。
次に、特養に何を求めるかについては、62.5%が「介護の場」ではなく「生活の場」として捉えていると回答した。
かつての「病院に近い施設」というイメージは薄れ、日常生活の延長として施設を見る意識が広がっている。
施設を選ぶ際に重視する要素(3つまで複数回答)については、
「医療・介護の質」が68.6%で首位だったものの、
「施設の質(建物・空間環境など)」が64.3%、
「スタッフの質」が61.5%と、ほぼ同水準で重視されていた。
「選ばれる理由」を持てない施設の行方
この調査結果が示すのは、家族が施設を選ぶ際の判断軸が、ケアの内容だけでなく、どのような空間・環境で暮らすかにまで広がっているという事実だ。
報酬制度や人員配置の議論だけでは、他施設との差別化は難しい。
倒産・廃業の増加は、需要が不足しているのではなく、利用者や家族から「選ばれる価値」を提示できない施設が市場から退出しつつある、いわば価値の選別が始まっていることを示す兆候ともいえる。
2040年以降の人口減少社会において、高齢者福祉施設に求められる問いは、「いかに効率的に運営するか」から「なぜこの施設が選ばれるのか」へと変わろうとしている。
書籍として提言をまとめる
こうした業界の構造変化を踏まえ、福祉施設研究所は書籍『最新版 高齢者福祉施設のつくり方』(日比野設計出版部)を刊行している。
設計手法の紹介にとどまらず、これからの社会において高齢者福祉施設がいかなる価値を提供すべきかを論じた内容となっている。
参照元: PR TIMES「高齢者人口は過去最多。それでも、福祉・介護事業の倒産は増え続けている。」株式会社日比野設計(2026年2月25日配信) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000178321.html

