リード文
株式会社CYBOとがん研究会有明病院の研究チームが、細胞診検査の革新的なデジタル化システムを開発し、2月19日に国際科学誌「Nature」に掲載された。
立体的な高精細画像とAI解析を組み合わせた臨床グレードのシステムは、従来の診断方法を大きく上回る精度を実現し、子宮頸がん検診をはじめ多くの医療領域での活用が期待される。
本文
医療現場が長年抱えていた課題
細胞診検査は、採取した細胞を顕微鏡で観察し、異常の有無を調べる診断法だ。検査の負担が少なく、がんの早期発見に極めて有効であるため、子宮頸がんや肺がん検診など多くの領域で活用されている。
しかし業界には根深い課題が存在する。細胞検査士と細胞診専門医の深刻な不足、検査業務の高い負荷、そして施設ごとの判定のばらつきだ。さらに従来の2D画像スキャナでは、標本に重なり合う細胞を十分に観察できず、スライド全体を立体的にデジタル化することは困難とされていた。
世界初の「ホールスライド・エッジ・トモグラフィー」
研究チームが開発した新技術は、複雑な課題を一気に解決する可能性を秘めている。スライド標本全体を高解像度の3D画像として高速にデジタル化する「ホールスライド・エッジ・トモグラフィー」である。
この技術の特徴は、撮像速度と画質、データ容量のバランスを最適化した点にある。装置内のエッジコンピューターが画像データを即座に処理・圧縮するため、大量の高精細画像を短時間で取得・保存できる。これにより、従来は不可能だった細胞の立体構造をデジタルで再現することが実現した。
AIが細胞の「形態の特徴」を数値化
単なるデジタル化だけではなく、付属するAI解析ソフトがその真価を発揮する。研究チームはがん研有明病院の熟練した細胞検査士と専門医の知見を活用し、高品質な学習データを構築。スライドに含まれる数万から百万個にも及ぶ細胞を自動認識し、異型細胞ほか各種細胞を分類する画像認識モデルを開発した。
特に注目されるのは「形態分化クラスター(CMD)」という独自の指標だ。これは各細胞の形態特徴を数値化したもので、フローサイトメトリーの分化マーカーに相当する概念である。CMD空間上では、細胞の腫瘍化に伴う形態の変化が可視化でき、従来のカテゴリー判定では捉えられなかった中間状態も定量的に評価可能になる。
臨床試験で専門家を上回る性能を確認
4つの医療機関で実施された大規模検証試験(合計1,124症例)では、AIの実力が実証された。子宮頸部液状化細胞診検体を用いた評価では、軽度扁平上皮内病変(LSIL)検出時のAUC値が0.86~0.91、高度扁平上皮内病変(HSIL)検出時が0.89~0.97と、施設や症例構成が異なる条件下でも一貫した高い性能を維持した。
さらに興味深いのは、HPV検査結果をリファレンスとした専門家との比較試験である。一部の項目において、AIの判定精度が熟練した細胞診専門医の精度を上回る結果が得られた。これは単なる検査支援ツールではなく、診断の主体的な役割を担い得る可能性を示唆している。
「定量細胞診」への道を開く
本システムが従来の方法と決定的に異なる点は、定量性と客観性の獲得にある。従来は検査士や医師の「見る力」に頼る部分が大きかったが、AIが標本内のすべての細胞を統計的に解析することで、症例ごとのリスク層別化やトリアージが客観的かつ再現性高く実施できるようになった。
研究チームはこれを「定量細胞診」の枠組みと位置付けている。細胞所見の判定標準化、品質保証の向上、そして施設間のばらつき低減—これらは細胞診が長年追求してきた理想像だ。
社会実装へ、そして世界へ
現在、関連技術は「CYBO Scan」として製品化されており、東京セントラルパソロジーラボラトリーに既に導入されている。複数の医療機関で導入評価が進行中で、子宮頸部細胞診用のAI解析ソフト「CYBO AI Cervix」も複数施設での臨床評価試験段階にある。
医療機器メーカーの日本精密測器(群馬県)では量産ラインの構築が進められており、供給体制の整備も着々と進んでいる。
研究チームの視野はさらに広い。子宮頸部以外の臓器—肺、甲状腺、乳腺、泌尿器など—への応用研究、遠隔診断・教育機能への展開、そして国際展開を見据えている。国内での実績をもとに海外の医療機関との共同研究を進め、「3Dデジタル細胞診とAI」という新診断基盤を世界に広げていく方針だ。
医療の質向上と検査従事者の負担軽減
本開発により期待される効果は医学的な精度向上にとどまらない。検査業務の自動化による人的負荷の軽減、検査士・医師の負担軽減、そして限られた専門人材の有効活用—これらはすべて実臨床に大きな恩恵をもたらす。
子宮頸がん検診では、「見落とし」と「過剰判定」の削減による検査精度向上が期待される。さらに低侵襲である細胞診という検査法の医療応用範囲を拡大する可能性も秘めている。
参照元
PR TIMES
「共同発表 世界初の臨床グレード自律型デジタル細胞診システムを開発」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000053839.html

