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介護業界は今、かつてない選別の時代に直面しています。経営基盤の脆弱化が急速に進む一方で、人材不足は極度に高まっており、業界全体の構造的な課題が明らかになってきました。複数の統計データから見えてくる現実と、2027年度の改定に向けた2026年の重要性について、データ分析の観点から整理する動きが活発化しています。
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介護経営の危機的状況を示す数値
介護事業を取り巻く経営環境は、統計数値に明確に表れています。厚生労働省が実施した「令和5年度介護事業経営実態調査」によると、介護サービス全体の平均収支差率は2.4%となっており、前回調査時(令和2年度)の3.0%から0.6ポイント低下しました。この数値が意味するところは深刻です。利益率が極めて薄い状況では、経営の安定性を確保することが困難になり、施設運営に必要な人員配置や設備投資に制約が生じます。
同時に、人材確保の困難さは業界全体で顕在化しており、特定の職種における求人倍率は15.5倍に達するなど、採用活動が極度に逼迫しています。この数字は、単に「人手が不足している」という以上の構造的問題を示唆しており、職員の配置基準や稼働率、業務設計そのものの見直しが急務であることを物語っています。
倒産増加と市場拡大の同時進行
介護市場は一見矛盾した現象が同時に起きています。高齢社会の進展に伴い、介護需要そのものは増加し続けているにもかかわらず、経営困難に陥る事業者が過去最多を記録するという状況です。この背景には、複雑な構造的要因が存在します。
市場全体の拡大と個別事業者の経営危機が並行して進行する理由としては、収益性の低さ、人材獲得競争の激化、地域ごとの需給バランスの不均等さなどが挙げられます。すべての事業者が同じ条件下で競争しているわけではなく、地域特性や経営規模によって生存可能性に大きな差が生まれているのです。
介護施設の役割変化が示す新たな需要
統計データから浮かび上がる重要な変化の一つが、介護施設の機能的役割の転換です。かつて「療養の場」と位置づけられていた介護施設は、次第に「看取りの場」「終の棲家」としての性格を強めています。
認定率57.7%という数値が示すとおり、要介護度の重度化が進んでおり、「病院で最期を迎える」という従来の医療中心のモデルから、「施設内での看取り」への転換が加速しています。この変化は、施設側に対して医学的知識や看護体制の強化を求めるとともに、入居者と家族のニーズに対応した運営体制の再構築を迫っています。
データ分析による経営判断の前提整理
こうした複雑な環境変化に対応するため、株式会社クーリエが運営する「みんなの介護研究所」では、公開統計と自社保有データを組み合わせた分析を開始しました。EBPM(証拠に基づく政策立案)の考え方に基づき、複数の前提条件のもとで構造変化を予測・可視化する取り組みです。
本連載では、人材確保の構造的課題、収支構造の分析、需要の質的変化という3つの経営指標に焦点を当てています。
人材確保の構造的課題では、15倍を超える求人倍率という現実を前提に、生産性向上と配置基準の見直しについて検討しています。
収支構造の分析では、利益率2.4%という極めて薄い経営基盤に対し、物価高騰の影響をどう経営戦略に組み込むかを解説しています。
需要の質的変化では、看取りニーズの増大と施設の機能転換について、統計データから読み解いています。
マルチステークホルダーを対象とした情報提供
注目すべき点は、このデータ分析が特定の関係者のみを対象としたものではなく、異なる立場の複数の関係者が共通の事実認識に基づいて判断できるよう設計されていることです。
介護事業者にとっては経営判断の前提を整理する素材となり、自治体にとっては次期計画策定のためのデータ集合となり、政策関係者にとっては制度議論の基礎となり、金融機関や不動産・コンサルティング企業にとっては投資判断の基礎情報となります。同じデータから異なる結論や判断を導き出すことで、業界全体の課題認識をより深める効果が期待されています。
2026年の重要性と次期基準改定への展望
現在の業界状況は、2027年度の介護報酬改定に向けた重要な分岐点を迎えています。2026年がどのような経営判断と施策につながるかによって、その後の業界構造が大きく変わる可能性があります。
特に人材確保と経営継続性のバランスをどう取るか、看取り機能の強化にどう対応するか、地域ごとの需給格差をどう埋めるかという課題について、ファクトに基づいた検討が求められています。
業界全体の持続可能性への挑戦
介護業界は今、単なる経営課題ではなく、社会全体の持続可能性に関わる問題を抱えています。高齢化の加速、労働人口の減少、限定的な財源という三重の制約の中で、どのような介護サービス体系を構築するべきか、業界全体で思考することの重要性が増しています。
データに基づいた冷静な分析と、業界内外の関係者による建設的な対話を通じて、2040年を見据えた介護システムの再設計が進むことが、高齢社会における安心と持続可能性の実現に不可欠となっているのです。
参照元
株式会社クーリエ プレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000227.000015597.html

