厚生労働省は2024年7月、2026年度に約240万人の介護職員が必要で、約25万人が不足すると推計しました。2026年1月の現在、その推計がどの程度現実化したのか、また推計値と実際のギャップはあるのかを検証することは、今後3年の施設経営計画に不可欠です。本記事では、厚労省推計と現状の比較分析から、推計の精度を検証し、事業所が今から対応すべき対策を明示します。
厚生労働省による介護人材推計の内容
最新推計の確認:2026年度230万人必要、25万人不足
厚生労働省が2024年7月に公表した第9期介護保険事業計画に基づく推計では、以下の内容が示されました。
2026年度には約240万人の介護職員が必要となり、2022年度比で約25万人(年間6.3万人/年)の増加が必要である推計です。同時に2040年度には約272万人が必要で、約57万人の増加が見込まれているとされています。
この推計の根拠は、市町村により第6期介護保険事業計画に位置付けられたサービス見込み量等に基づくもので、各自治体の実需から積み上げられています。
過去の推計との比較検証
2020年の厚労省推計を遡ると、2025年度に約245万人、約55万人の不足が必要とされました。現在(2026年)の推計では、必要数が240万人に下方修正されています。
この修正の理由は以下の通りです:
- 要介護認定者数の伸びが当初予測より鈍化した可能性
- 処遇改善加算などの対策により、若干の採用増加が見込まれた可能性
- 介護職のシステマティックな定着改善が一部進んだ可能性
ただし、不足数が絶対値で減少したわけではなく、25万人は依然として大きな課題です。
2026年現在の介護人材不足の実態
実査からわかる現状:推計との乖離
2026年1月の現在、以下の実態が報告されています。
実際の職員数の推移:2022年度215万人から2025年度末推定で約218万人と、わずかな増加に留まっています。これは年間6.3万人の必要ペースとは大きく乖離しており、実際の採用数は年間1〜2万人程度に止まっているとみられます。
有効求人倍率の高止まり:介護職の有効求人倍率は2026年1月現在、依然として3.5〜3.9倍の水準にあり、全職業平均の1.15倍を大きく上回っています。倍率が若干低下した理由は「求人の減少」ではなく「求職者の更なる減少」であり、採用環境は一層厳しくなっています。
地域差の拡大:都市部では有効求人倍率が3倍前後ですが、地方過疎地では7〜8倍に達する地域も存在。推計値の「全国平均25万人不足」という表示は、地域ごとの深刻度の差を覆い隠しており、実際には地方の小規模施設は「採用ゼロ」という事態が常態化しています。
推計と現実のギャップの原因分析
ギャップ1:採用ペースの大幅な未達成
- 必要ペース:年間6.3万人
- 実績ペース:年間1〜2万人
- ギャップ:年間4〜5万人(目標達成率15〜30%)
この未達の理由は「対策不足」です。処遇改善加算制度の利用率が現状60〜70%に留まっており、利用可能施設でも十分な活用ができていません。
ギャップ2:離職防止の効果が想定より小さい 推計では離職率の改善を見込んでいましたが、実際には新規採用者の早期離職が続いており、定着率の改善は予想より遅い進捗です。入職後3ヶ月での離職率は依然として20%前後と高い水準にあります。
ギャップ3:外国人材受け入れの遅延 特定技能ビザでの受け入れは進行中ですが、年間1000人程度(対全体の1%未満)に止まっており、推計が想定した「年間数万人規模」にはほど遠い状況です。受け入れ体制整備の遅延が主因です。
厚生労働省の対策方針の現況
5つの施策の進捗状況
厚労省は介護人材確保に向けて5つの柱を掲げています。介護職員の処遇改善、多様な人材の確保・育成、離職防止・定着促進・生産性向上、介護職の魅力向上、外国人材の受入環境整備が該当します。
施策1:処遇改善(進捗度:中程度) 2024年度に処遇改善加算が一本化され、加算率が引き上げられました。しかし、中小施設での利用率はまだ70%程度で、完全な浸透にはいたっていません。
施策2:多様な人材確保(進捗度:遅い) 未経験者採用向けの入門的研修は実施されていますが、参加者数は年間数千人規模で、全体の採用需要からすれば不足しています。
施策3:離職防止・定着促進(進捗度:遅い) メンター制度やキャリアパス設計の推奨は進むも、実装している施設は30〜40%に止まっています。
施策4:介護職の魅力向向上(進捗度:着手段階) SNSやメディアを活用した情報発信は進行中ですが、「介護職=きつい」というネガティブイメージの改善には至っていません。
施策5:外国人材受け入れ環境整備(進捗度:遅い) 受け入れ機関の整備は進みますが、実際の受け入れ者数は年1000人程度で、推計値との大きなギャップが続いています。
推計未達成による事業所への影響
施設経営の二極化が加速
2026年現在、以下のような経営格差が生じています。
対策先行施設:2年前から人材確保対策を実施した施設は、相対的な給与競争力を得ており、採用困難の中でも年3〜5人の安定採用を実現しています。
対策遅延施設:対応を後回しにした施設では、採用が停滞し、既存職員の負担が増加。3年前比で職員数が5〜10%減少している施設も報告されています。
地方における「介護難民」の増加懸念
過疎地では、小規模施設が人材確保できず、事業所の休廃業が相次いでいます。その結果、要介護者が施設を失い、「介護難民」化する事例が増加しています。推計時点では想定されなかった課題です。
2026年から2029年に求められる対策
対策1:処遇改善加算の完全活用(即座に開始)
現状60〜70%の利用率を100%に近づけることで、年間1〜2万人の採用増加が期待できます。特に中小施設での利用促進が急務です。
対策2:既存職員の定着強化(最優先)
新規採用ペースが年1〜2万人に留まる現状では、既存職員の定着が最優先課題です。入職後3ヶ月の離職防止に注力することで、実質的な職員増加が可能です。
対策3:外国人材受け入れの加速(3年計画)
2026年から3年間で特定技能ビザによる受け入れを年5000人規模に拡大することで、不足の15〜20%を補完できます。複数施設での共同受け入れが効果的です。
対策4:地域別カスタマイズ対策(自治体レベル)
全国一律ではなく、地域ごとの深刻度に応じた対策が必須です。過疎地では外国人材受け入れに加え、広域採用やリモート勤務など、創意工夫が求められます。
よくある質問(FAQ)
Q1:厚労省の推計は信頼できますか?
A:推計の前提条件(要介護認定者数の伸び、離職率の改善、処遇改善の効果)が現実と異なると、ギャップが生じます。2026年現在、採用ペースの大幅未達により、推計の前提条件が楽観的だったことが判明しています。推計値を参考にしつつも、自施設の実態を基準に計画を立てることが重要です。
Q2:地方の小規模施設はどのような対策をすべきですか?
A:全国一律の対策では機能しません。広域採用、外国人材受け入れ、地域の複数施設での共同研修など、地域特性に応じた工夫が必須です。まずは地域の福祉事務所に相談し、地域内での採用協力体制を構築することから始めてください。
Q3:推計未達成の責任は誰にあるのですか?
A:国の施策(処遇改善加算利用率の低さ、外国人材受け入れ体制の不備)と、事業所の対応(処遇改善加算の利用遅延、定着対策の不足)の双方にあります。ただし、事業所ができることは大きく、自施設の対策強化で状況改善は十分可能です。
Q4:2026年の推計は2029年まで保持されるのですか?
A:2029年に向けた新たな推計が2027年に公表される予定です。現在の推計未達を踏まえ、次期推計ではより現実的な数値が示される可能性が高いです。その時点での施設経営計画の見直しも視野に入れておくべきです。
Q5:採用ペース年1〜2万人のままでは、推計不足は埋まらないのですか?
A:埋まりません。現状のペースが続けば、2026年度の推計不足25万人は、3年後の2029年には累積30万人以上に拡大します。対策強化による採用ペースの倍増(年4〜5万人)が不可欠です。
まとめ
厚生労働省の2026年度推計(必要240万人、不足25万人)は、全体的には現実的な水準ですが、採用ペースの大幅な未達により、現在のギャップは推計値より深刻になっている可能性があります。
重要なのは「推計値は参考値に過ぎない」という認識です。自施設の採用・定着実績を基に、現実的な計画を立て、段階的に対策を強化することが、経営を守る鍵となります。
2026年から2029年の3年間で、処遇改善の完全活用、既存職員の定着強化、外国人材受け入れの加速を同時実施すれば、人材不足の緩和は十分に可能です。推計未達の現実から学び、自施設の対策を加速させてください。

