「2025年問題」として注目される介護人材不足ですが、実際のピークは2026年度です。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に達する2025年時点で、介護職員は約240万人必要とされますが、2022年度の約215万人から約25万人増加が求められます。
この記事では、2025年が単なる時間軸ではなく、事業所にとって「準備と対策の実行ウィンドウ」であることを詳しく解説します。来たるべき2026年度以降の本格的な需給ギャップに備えるため、今から実施すべき具体的なステップと、認知症対応を含めた人材育成戦略をお示しします。
「2025年問題」の正体:時間軸の再整理と現実
2025年は転換点であり、2026年度が本当のピーク
厚生労働省の「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」では、2026年度に約240万人、2040年度に約272万人の介護職員が必要と推計されています。年間の増加が必要な人数は、2026年度までが毎年6.3万人、その後は毎年3.2万人と減速します。
つまり、2025年は「問題顕在化の年」であり、2026年度こそが「最大の採用圧力がかかる年」なのです。2025年の今から対策を始めなければ、2026年度の人員配置に支障が出ることになります。
後期高齢者数の推移が示す現実
2025年9月時点で、75歳以上の後期高齢者人口は約2,105万人に達しており、2026年以降には約2,150万人を超えると推計されています。全人口に占める比率は年々上昇し、2030年には約18.5%に達する見通しです。
一方、働き手となる20~64歳の生産年齢人口は毎年減少しており、介護職員を供給し続けることが構造的に困難になっています。この「需要増加と供給減少の同時進行」が、介護業界を異なる次元の課題へと押し込んでいます。
介護事業所の現在地:64.7%が「人手不足」を実感
公益財団法人介護労働安定センターの令和5年度調査によると、従業員の過不足感について、全体の64.7%の介護事業所が「不足」と回答しました。さらに「大いに不足」と「不足」を合わせると、3割を超える事業所が深刻な不足感を抱えています。
この「既に深刻」な状況がさらに悪化する。これが2025年問題の本質です。
2025年~2026年に事業所が直面する具体的なリスク
「介護難民」の急増と施設待機者の爆発的増加
特別養護老人ホームでは、2019年の時点で29.2万人の要介護3~5の待機者がいました。人手不足により受け入れ能力が低下すれば、待機者はさらに増加します。
在宅介護を希望しながらも、介護サービスが利用できない「介護難民」が増えることで、利用者本人の生活水準低下だけでなく、同居家族の介護離職リスクも上昇します。事業所の経営責任として、この社会的課題に無関心でいることはできません。
認知症対応人材の深刻な不足
2025年には、65歳以上の認知症患者数は約675万人に達し、高齢者の5.4人に1人が認知症患者になると予測されています。これは2020年の約602万人(7人に1人)から大幅に増加する見込みです。
認知症ケアには専門的な知識とスキルが必要であり、一般的な介護スタッフの研修では対応が難しいケースが増えます。認知症対応加算や認知症サポーター養成研修の完備が、事業所の競争力を左右する時代が来ています。
従業員の負担増による離職率上昇の悪循環
利用者数が増加しても職員が確保できない場合、既存職員一人当たりの負担が増加します。特に介護職員は身体的負担が大きいため、過度な負担は離職を加速させます。
離職→採用→育成→定着といった人材マネジメントサイクルが破綻すれば、事業継続そのものが危機に陥ります。小規模事業所ほど、この悪循環に陥りやすい傾向があります。
事業所が2025年(今)から実施すべき4段階の準備対策
段階1:現状把握と戦略立案(実施期間:1~2ヶ月 / 難易度:低)
タスク1-1:自事業所の人材需給ギャップを数値化する
現在の職員数(常勤換算)、直近3年の離職者数、今後3年の利用者予測からの必要職員数を整理します。特に「訪問介護は何件の訪問に対応できるか」「施設は空床数か」など、業務量と職員数の関係を定量化することが重要です。
タスク1-2:地域の人手不足状況を把握する
自治体の福祉人材センター、ハローワークで、自地域の介護職有効求人倍率、競争相手となる他事業所の採用状況を確認します。都市部と過疎地で対策が異なるため、自地域の特性理解が不可欠です。
タスク1-3:事業所の「強み」「弱み」を整理する
給与水準、研修制度、福利厚生、離職率などを業界平均と比較し、採用競争における自事業所の立場を客観的に把握します。
段階2:離職防止・定着促進の仕組み構築(実施期間:3~4ヶ月 / 難易度:中)
タスク2-1:月1回の個別面談体制の整備(導入期間:2週間)
すべての職員と月1回、30分程度の個別面談を実施する制度を構築します。特に新入職員(入職6ヶ月以内)は月2回の面談が効果的です。面談票のテンプレートを用意し、「仕事の困りごと」「キャリア希望」「職場環境への満足度」を定期把握します。
実施例:7月から開始すれば、12月までに全職員1回以上の面談が実現でき、年内に課題把握と改善策検討が可能です。
タスク2-2:女性職員向けの両立支援制度の明文化(導入期間:1ヶ月)
育児休暇から復帰する際の時短勤務、シフト選択制度(「日中のみ」「夜勤なし」など)、保育施設との提携を整備します。2025年4月から施行された改正育児・介護休業法により、事業主は両立支援制度の周知と個別相談が義務化されています。
既に制度がある場合も、職員全員が正確に理解しているか周知状況をチェックすることが重要です。
タスク2-3:新入職員の定着を支える「メンター制度」の構築(導入期間:1~2ヶ月)
入職後1~3ヶ月の新入職員に対し、ベテラン職員(メンター)が専属でサポートする制度を導入します。メンターには別途手当(月5,000~10,000円程度)を支給し、やる気を引き出します。
新入職員の3ヶ月時点での離職防止率は、この時期のサポート充実度に比例することが実証されています。
段階3:採用チャネルの多元化と採用層の拡大(実施期間:進行中 / 難易度:中)
タスク3-1:介護専門求人サイトの掲載と工夫(実行期間:通年)
単なる条件記載に留まらず、「職場の実際」「スタッフの声」「キャリアパス」を具体的に記載します。写真や動画を活用することで、求職者の応募意欲が向上することが確認されています。
タスク3-2:既存職員による紹介制度の整備(構築期間:2週間)
知人紹介で採用した場合、紹介者に5,000~10,000円の報奨金を支給する制度を導入。紹介者が「自信を持ってこの職場を勧められる」環境づくりが前提です。
タスク3-3:潜在介護人材(離職経験者)の掘り起こし(実行期間:随時)
自治体の福祉人材センターで潜在人材向けセミナーに参加し、一度職場を離れた経験者にアプローチします。ブランク者向け実技研修を準備しておくと、採用しやすくなります。
タスク3-4:シニア層(55~70歳)の活用戦略(実行期間:随時)
健康で経験豊富なシニア層を「限定勤務(週3~4日、短時間)」で採用する枠を作ります。若年層の採用が難しい中、シニア層は新たな人材源になります。
段階4:認知症対応人材育成と処遇改善加算の上位区分取得(実施期間:3~6ヶ月 / 難易度:高)
タスク4-1:認知症サポーター養成研修の全員受講(実行期間:3~4ヶ月)
厚生労働省推進の認知症サポーター養成講座(90分)を、全職員に受講させます。外部講師を招聘するか、自施設でトレーナーを育成します。675万人の認知症患者対応は、もはや「専門職のみ」では対応できず、すべての職員の基礎理解が必須です。
タスク4-2:認知症ケア認定資格者の配置促進(実行期間:継続的)
既存職員から認知症対応専門職を育成するため、外部研修受講(5~10万円程度)を事業所が補助する制度を導入。年間2~3名の認知症ケア専門職を育成できれば、人材の質が向上します。
タスク4-3:処遇改善加算(上位区分)の取得準備(実行期間:2~3ヶ月)
給与を最低でも月4,000~6,000円程度引き上げるための処遇改善加算上位区分取得準備を始めます。取得要件(キャリアパス明示、職場環境改善、人材育成体制整備など)を満たしているか、自治体に相談しながら準備します。
給与上昇が「言葉ではなく実行」で示されることで、採用競争力と既存職員の満足度が向上します。
よくある質問(FAQ)
Q1:「2025年は準備の年」と聞いても、人手不足が既に深刻なのに準備できるのか?
A:短期と長期の両面対応が必要です。短期(今後3ヶ月)は「現有職員の定着」に全力投球し、離職を防ぐことが採用より効果的。同時に、採用チャネルの多元化(3ヶ月~6ヶ月)を仕込めば、2026年度の本格的な人員確保につながります。
Q2:認知症患者675万人という数字が本当に来るのか?
A:厚労省の推計であり、ほぼ確実と見られています。2020年実績が約602万人で、2025年予測が675万人。増加速度は加速する傾向です。今から認知症対応教育を整えておかないと、2026年以降は対応が後手に回ります。
Q3:処遇改善加算の上位区分取得は、本当に採用に効くのか?
A:有効性は確認されています。月給が25万円から30万円台に上昇することで、求職者の応募が1.5~2倍増加した事例が報告されています。ただし、要件が複雑なため、自治体の福祉人材センターに相談しながら準備することをお勧めします。
Q4:小規模事業所でも対策は間に合うのか?
A:間に合います。むしろ小規模ほど、「全員を把握できる」「方針転換が速い」という利点があります。個別面談とメンター制度の導入により、3ヶ月以内に職員満足度の向上が期待できます。
Q5:2040年問題も視野に入れるべきか?
A:2025年対応で精一杯の事業所も多いですが、認知症対応人材育成や職場環境改善の投資は、2040年まで有効です。むしろ「今から認知症対応に力を入れる事業所」が、2030年~2040年の競争力をもつようになります。
まとめ
「2025年問題」は2025年1月時点では既に「現在進行中の問題」です。ピークは2026年度であり、準備の猶予は限られています。事業所が実施すべきは、まず「現有職員の定着促進」と「採用チャネルの多元化」です。同時に、675万人に達する認知症患者への対応人材育成も急務です。
今から4段階の対策(現状把握→離職防止→採用強化→人材育成)を実行すれば、2026年度以降の本格的な需給ギャップに耐えうる組織基盤が築けます。2025年が「準備と実行の関所」であることを認識し、月単位での取り組みを開始することが、事業継続と利用者サービスの質維持を約束する最善の投資です。

