介護人材を増やすには?2026年度240万人必要に向けた4つの実践的対策

福祉経営

2026年度の介護人材は約240万人が必要とされていますが、現状では約215万人にとどまり、約25万人の新規確保が急務です。この課題に対応するには、「採用」「定着」「育成」「支援活用」の4つのアプローチを並行実施することが不可欠です。

本記事では、全国の介護事業所が直面する人材確保の現実を踏まえ、事業所で即座に実行できる方法を詳細に解説します。国や自治体の支援制度の活用法も含め、人材を増やし、利用者サービスの質を保つための具体的なステップをお示しします。


  1. 介護人材確保の現状:なぜ増やすことが困難なのか
    1. 需給ギャップの構造的課題
    2. 採用困難性が続く理由
    3. 離職率の改善が採用努力を相殺
  2. 介護人材を増やすための4つの実践的対策
    1. 対策1:採用チャネルの多元化と採用ペルソナの明確化
      1. ステップ1-1:採用したい人材像を具体的に定義(所要時間:3~5時間)
      2. ステップ1-2:複数の採用チャネルを同時展開(実行期間:1~2ヶ月)
      3. つまずきやすいポイント:採用基準の曖昧化
    2. 対策2:既存職員の定着促進と職場環境の改善
      1. ステップ2-1:職員の悩みを把握する定期面談体制の構築(導入期間:2週間)
      2. ステップ2-2:女性職員向けの働き方支援(導入期間:1~3ヶ月)
      3. ステップ2-3:キャリアパスの明示と研修体制の充実(導入期間:1ヶ月)
      4. つまずきやすいポイント:研修実施の名目化
    3. 対策3:未経験者・シニア世代の新規人材層の開拓
      1. ステップ3-1:国の介護入門的研修を活用した新規層獲得(実行期間:2~3ヶ月)
      2. ステップ3-2:シニア世代(55~70歳)を活用した補完戦略(実行期間:継続的)
      3. ステップ3-3:潜在介護人材(離職経験者)の復職支援プログラム構築(実行期間:3~6ヶ月)
      4. つまずきやすいポイント:シニア層採用の品質管理
    4. 対策4:国・自治体の支援制度の最大活用
      1. ステップ4-1:処遇改善加算の上位区分取得(準備期間:2~3ヶ月)
      2. ステップ4-2:修学資金や再就職準備金の活用告知(実行期間:継続的)
      3. ステップ4-3:人材育成等認証評価制度の取得(実行期間:6~12ヶ月)
      4. つまずきやすいポイント:支援制度の周知不足
  3. よくある質問(FAQ)
    1. Q1:「人材を増やす」と「定着させる」はどちらを優先すべきか?
    2. Q2:採用ペルソナを設定すると、応募数が減るのではないか?
    3. Q3:潜在介護人材の復職支援にはどの程度のコストがかかるか?
    4. Q4:シニア層採用で利用者クレームが増えるリスクはないか?
    5. Q5:最初に実施すべき対策は何か?
  4. まとめ

介護人材確保の現状:なぜ増やすことが困難なのか

需給ギャップの構造的課題

2023年10月1日時点での介護職員数は約212.6万人で、前年から約3万人減少しているため、必要数240万人との差は25万人にも及びます。さらに懸念すべきは、年間の増加ペースが1~3万人程度に過ぎず、大幅な改善が見られないことです。

一方、要介護認定者数は団塊世代の後期高齢者入りにより、毎年右肩上がりで増加しています。このままでは、限られた職員がより多くの利用者を支える構図が確定し、一人当たりの業務負担は確実に増加します。

採用困難性が続く理由

常勤介護職員の平均基本給は25万5,400円であり、全産業平均の33万400円と比べて約8万円下回っている。この給与格差は、「業務の難しさや負担に比べて賃金が見合わない」という認識につながり、新規採用層の流入を阻害しています。

加えて、訪問介護職員の場合、実に8割以上が人手不足を訴えているほど、職種によって採用困難性のばらつきが大きいのが特徴です。

離職率の改善が採用努力を相殺

離職率は過去より低下傾向にありますが、新規採用の母数そのものが減少しているため、相対的な人員不足は解消されていません。特に勤続3年未満の離職が半数以上を占めており、「採用してから定着させるまで」のプロセスが人材確保の最大のボトルネックになっています。


介護人材を増やすための4つの実践的対策

対策1:採用チャネルの多元化と採用ペルソナの明確化

ステップ1-1:採用したい人材像を具体的に定義(所要時間:3~5時間)

まず、「年齢」「経験有無」「資格保持状況」「働き方(常勤・非常勤)」を明確にします。現場職員にヒアリングを行い、実際に「どのような人が合うのか」「どのような人に来てほしいか」を聞き出すことが重要です。

例えば、「未経験かつ35~50代の女性で、定時帰宅可能な訪問介護員」という具体的ペルソナが設定できれば、求人文案や面接質問の効率が劇的に向上します。

ステップ1-2:複数の採用チャネルを同時展開(実行期間:1~2ヶ月)

採用有効倍率が4倍を超える現状では、求人サイト掲載だけでは足りません。以下の複合アプローチが必須です。

介護専門求人サイト:業界特化による高い精度のマッチング。競合他社も掲載しているため、求人票の工夫(職場環境PR、研修制度の明記)が合否を分けます。

既存職員による紹介制度:知人紹介は定着率が高く、採用コストも低い。紹介者に報奨金(5,000~10,000円程度)を支給する制度を整備すれば、職員の積極的な推薦につながります。

潜在介護人材の掘り起こし:出産や介護で一度職場を離れた層が全国に数百万人存在します。再就職向けセミナーやハローワークの職業訓練利用で、ブランクのある経験者を回帰させることが有効です。

つまずきやすいポイント:採用基準の曖昧化

「とりあえず誰でもいい」という姿勢は、採用後の早期離職につながります。採用ペルソナを設定していない事業所の離職率は、設定している事業所と比べて20~30%高いという調査結果もあります。

対策2:既存職員の定着促進と職場環境の改善

ステップ2-1:職員の悩みを把握する定期面談体制の構築(導入期間:2週間)

月1回程度の個別面談を制度化し、職員の悩みを早期に捕捉します。特に「人間関係」が離職理由の第1位であることから、相談しやすい環境整備が不可欠です。

面談では、「仕事の困りごと」「キャリア希望」「生活面での課題(特に女性の育児・介護)」の3点を軸に聞き取ります。その場で「○○月までに改善する」という約束を明確にすることで、職員の帰属意識が向上します。

ステップ2-2:女性職員向けの働き方支援(導入期間:1~3ヶ月)

女性介護職員の離職理由の上位は出産・妊娠・育児であるため、以下の環境整備が効果的です。

育児休暇制度の充実:法定最低限ではなく、復帰後の時短勤務や保育施設との提携を整備。

シフト選択制度:「夜勤不可」「月~金のみ」といった条件を事前に設定でき、固定化できる仕組み。

職場復帰研修:ブランク後の技術不安を払拭するための短期研修を無料で提供。

ステップ2-3:キャリアパスの明示と研修体制の充実(導入期間:1ヶ月)

人材育成により、職員のスキルが向上することで仕事の幅が広がり、将来への展望が明るくなり、退職を防ぐ効果が期待できる。

「初任者研修修了後3年で、リーダー職への昇進可能」というキャリアラダーを可視化することで、若手職員のモチベーション維持につながります。特に新卒者からは、入職面接で「教育制度について教えてください」と聞かれることが増えており、これが採用成否を左右する要因になっています。

つまずきやすいポイント:研修実施の名目化

マニュアル作成だけで終わり、実際の研修が定期開催されない事業所が多くあります。OJT担当者の負担軽減(時間確保)と、研修専任担当者の配置が重要です。

対策3:未経験者・シニア世代の新規人材層の開拓

ステップ3-1:国の介護入門的研修を活用した新規層獲得(実行期間:2~3ヶ月)

厚生労働省は介護分野への未経験者参入を促進するため、入門的研修実施を推進している。これは自治体で無料または低額で実施される研修です。

実施日数により、30時間~150時間コースがあります。修了者に対して、事業所が「修了後の採用試験」を実施する運用が増えており、教育コスト低減と質の高い人材確保の両立が可能です。

ステップ3-2:シニア世代(55~70歳)を活用した補完戦略(実行期間:継続的)

若年層の採用が困難な現実を踏まえ、健康であるシニア世代を「新たな介護人材」として位置付ける動きが広がっています。シニア世代は業務経験が豊富で、利用者からの信頼も厚い傾向があります。

短時間勤務や週3~4日の限定勤務を事前に設定し、「仕事と趣味の両立」をキャッチコピーにした採用活動が有効です。

ステップ3-3:潜在介護人材(離職経験者)の復職支援プログラム構築(実行期間:3~6ヶ月)

埼玉県や青森県では潜在介護人材の復職支援に注力しており、再就職準備金を交付している。自治体の支援制度を活用した復職促進が、新規採用と並ぶ重要な人材確保手段です。

自事業所で「ブランク者向けの実技研修」「メンター制度」を整備することで、再就職者の定着率が大幅に向上します。

つまずきやすいポイント:シニア層採用の品質管理

単に「人数補充」の感覚で採用してしまうと、利用者サービスに悪影響が及びます。事前の実技試験や健康診断、利用者対応の適性判定を厳密に実施することが必須です。

対策4:国・自治体の支援制度の最大活用

ステップ4-1:処遇改善加算の上位区分取得(準備期間:2~3ヶ月)

給与格差が人材確保の大きなハードルであることから、国は「介護職員処遇改善加算」で給与底上げを支援しています。3段階あり、上位区分(加算Ⅲ)取得により、職員1人当たり月4,000~6,000円の手当上乗せが可能です。

兵庫県では処遇改善加算の新規取得や上位区分取得を促進するため、事業所向けの研修を実施しているほど、自治体レベルでもサポート体制が整備されています。

ステップ4-2:修学資金や再就職準備金の活用告知(実行期間:継続的)

自治体によって異なりますが、以下の支援制度が存在します。

介護福祉士養成課程向け修学資金:月額5万円、入学・就職準備金として20万円程度。一定期間県内勤務で返還免除。

潜在人材向け再就職準備金:再就職後、県内施設で勤務することで返還免除される制度。

採用活動時に「当事業所で働けば、自治体の支援制度で学費返還免除の対象になる」とアピールすることで、求職者の応募率が向上します。

ステップ4-3:人材育成等認証評価制度の取得(実行期間:6~12ヶ月)

人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度は、職員育成や就労環境改善に取り組む事業者を都道府県が評価し、認証を付与する制度です。

取得により、採用広報時に「職員育成に真摯に取り組む事業所」として差別化でき、応募者の質・量が向上することが実証されています。

つまずきやすいポイント:支援制度の周知不足

事業所側が支援制度の詳細を理解していない場合が多く、求職者への告知ができていません。都道府県の福祉人材センターに定期的に問い合わせ、最新制度情報を常に把握することが重要です。


よくある質問(FAQ)

Q1:「人材を増やす」と「定着させる」はどちらを優先すべきか?

A:並行実施が必須です。採用してもすぐ離職では投資が無駄になります。採用活動を進める前に、職場環境改善と定着支援体制を先行させることで、採用した人材の流失を最小限に抑えます。

Q2:採用ペルソナを設定すると、応募数が減るのではないか?

A:質の低下を防ぐために、曖昧な採用基準より明確なペルソナが重要です。むしろ「求める人材が明確」「成長機会がある」と知った求職者の応募率が上がり、ミスマッチによる早期離職も減ります。

Q3:潜在介護人材の復職支援にはどの程度のコストがかかるか?

A:実技研修3~5日間程度(費用は自治体補助で無料~5万円程度)、メンター配置(既存職員の時間給換算で月20~40時間)です。新規採用者の採用・教育コストと比較すると、経済効率が良い傾向にあります。

Q4:シニア層採用で利用者クレームが増えるリスクはないか?

A:事前の適性判定と実技試験を厳密に実施すれば、リスクは最小化できます。むしろシニア層の落ち着いた対応が利用者に好評という事業所も多くあります。

Q5:最初に実施すべき対策は何か?

A:現状把握です。自事業所の「離職者の理由」「現職員が感じる課題」「採用に必要な人数・職種」を可視化することから始まります。その上で、採用・定着・育成の優先順位が自動的に決まります。


まとめ

介護人材を2026年度の240万人水準まで増やすには、「採用チャネル多元化」「既存職員定着」「新規人材層開拓」「支援制度活用」の4つを並行実施することが不可欠です。単一の施策では対応できない構造的課題であるため、複合的なアプローチが求められます。

特に、潜在介護人材(離職経験者)の掘り起こしと、シニア世代の活用は、採用困難性が高い現状では有力な選択肢になります。同時に、採用した人材をいかに定着させるかが、真の人材確保につながることを忘れずに。

今から準備を始め、2026年度までの間に、自事業所に最適な人材確保戦略を整備することが、事業継続と利用者サービス品質の維持を約束する最善の投資です。

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