「介護職は人手不足って聞くけど、なぜこんなに深刻なの?」と疑問に感じていませんか。介護職の人手不足は、需要と供給の加速度的なギャップ、給与を上げにくい制度上の制約、離職の真因である人間関係の問題という3つの構造的理由により深刻化しています。この記事では、行政機関や業界調査機関の最新データをもとに、介護業界の人手不足がなぜ解消されないのか、その本質的な原因を解説します。
現場で働く方、これから介護職を目指す方、人材確保に悩む事業所管理者の方まで、問題の全体像を理解し、今後の対策を考えるヒントが得られるでしょう。実際のデータと現場の実態から、介護人材不足の本当の理由を明らかにします。
介護職の人手不足はどれほど深刻なのか
有効求人倍率は全職種平均の3倍超
介護業界の人手不足は、数字を見れば一目瞭然です。行政機関のデータによると、介護関係職種の有効求人倍率は3.97倍で、全職種平均の1.16倍を大きく上回ります。つまり、1人の求職者に対して約4件の求人がある状態で、他業界と比較して圧倒的に人材獲得競争が激しいことがわかります。
さらに地域差も顕著で、大都市部では7.65倍と全国平均の約2倍に達しています。一方、地方では2.5倍前後と相対的に低いものの、それでも人手不足であることに変わりはありません。都市部ほど高齢者が増加する一方、若年層の労働力が他業種に流れやすく、介護人材の確保がより困難な状況です。
2025年には32万人、2040年には69万人が不足
将来予測はさらに深刻です。行政機関の試算では、2025年度には約243万人の介護職員が必要とされる一方、2019年度比で約32万人が不足すると予測されています。さらに2040年度には約280万人が必要となり、不足数は約69万人に膨らむ見込みです。
ただし2040年以降は高齢者人口の増加が落ち着き、介護需要もピークアウトする見通しです。つまり、今後15〜20年が最も人手不足が深刻化する時期であり、この期間をどう乗り越えるかが介護業界全体の課題となっています。
実は職員数は増えているのに足りない現実
意外な事実ですが、2000年以降で最も人数が増えた職種は介護職員です。それでも慢性的な人手不足が続いているのは、介護サービスの需要増加が人材の増加ペースを大きく上回っているためです。要介護・要支援認定者数は2000年の約256万人から2023年には約708万人へと約2.8倍に増加しました。
つまり、介護職員を増やす努力は続けられているものの、需要の拡大スピードが圧倒的に速く、供給が追いつかない構造になっています。この需給ギャップこそが、人手不足が解消されない根本的な理由の一つです。
介護職の人手不足を深刻化させる3つの構造的理由
理由1:少子高齢化による需給の加速度的ギャップ
介護職の人手不足の最大の理由は、需要と供給の伸び率に大きな差があることです。日本では2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、高齢者総数は3,653万人、後期高齢者は2,155万人に達します。さらに2060年には高齢化率が37.9%に上昇する見込みです。
一方で、少子化により労働力人口は減少の一途をたどっています。介護職員の年齢構成を見ると、60歳以上が19.2%を占める一方、10〜20代は6.2%にとどまります。若年層の参入が少なく、既存職員の高齢化も進んでいるため、定年退職による人材流出も今後増加する見通しです。
つまり、介護を必要とする高齢者は急増する一方、それを支える働き手は減少するという構造的な矛盾が、人手不足を加速させています。この需給ギャップは個々の事業所の努力だけでは解消できない、社会全体の課題といえるでしょう。
理由2:給与を上げにくい介護保険制度の構造的制約
介護職の給与が他業種より低い傾向にあるのは事実です。行政統計によると、介護職を含む医療・福祉産業の平均賃金は30.64万円で、全産業平均を下回っています。しかし、これは事業所が意図的に給与を抑えているわけではありません。
介護サービスの報酬は介護保険制度によって単価が決められており、事業所が自由に価格設定できない仕組みになっています。例えば「訪問介護でこのサービスを実施したら○○円」「特別養護老人ホームで要介護3の方が利用すると1日○○円」といった具合に報酬が固定されているため、売上の上限が存在します。
さらに3年に1度の報酬改定でマイナス改定となれば、同じ仕事をしていても事業所の収益が減少します。社会保障費の財政圧迫により報酬を大幅に引き上げることが難しく、結果として給与水準が他業種より低くなりがちです。
もちろん、国は処遇改善加算や職員等ベースアップ加算などで対策を講じていますが、制度上の制約により給与が劇的に改善しにくい構造が、人材獲得を困難にしています。
理由3:離職の最大原因は給与より人間関係
「介護職は給与が低いから離職率が高い」というイメージが強いかもしれませんが、実際のデータは異なります。業界調査機関の調査によると、介護職の離職理由で最も多いのは「職場の人間関係に問題」で23.2%を占めます。「収入が少ない」は17.7%で6番目にとどまります。
また、介護業界の離職率は13.8〜15.3%で、全産業平均の14.2%とほぼ同水準です。つまり、介護職の離職率が特別高いわけではなく、むしろ「離職率が高い」というイメージが先行していることが問題といえます。
人間関係のトラブルが多い背景には、利用者、その家族、他の職員、医療従事者など多くの人と関わる必要があること、評価制度が整っていない事業所では仕事の成果が正当に評価されにくいこと、人手不足により一人当たりの負担が大きく職場に余裕がないことなどが挙げられます。
給与面の改善も重要ですが、働きやすい職場環境づくりや人間関係の改善こそが、人材の定着率を高める鍵となります。実際、相談窓口がある事業所では職員の42.1%が人間関係に悩みを感じていないのに対し、相談窓口がない事業所では22.9%にとどまるというデータもあります。
今後の展望と解決に向けた動き
国による処遇改善とICT活用の推進
国は介護人材の確保に向けて複数の施策を進めています。2024年6月には処遇改善加算が一本化され、加算率も引き上げられました。2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップを目指しており、月額6,000円相当の給与改善が期待されています。
また、ICT導入による業務効率化も推進されています。勤怠管理アプリ、シフト作成システム、タブレット型の介護記録システムなどを導入した事業所の多くがプラスの効果を実感しており、職員の負担軽減につながっています。
さらに、外国人介護人材の受け入れも拡大中です。特定技能制度の創設により、技能実習生や留学生に加えて即戦力となる外国人の雇用が進んでいます。ただし外国人雇用を実施していない事業所はまだ78.8%に上り、今後の拡大が期待されます。
事業所レベルでの取り組みが鍵
国の政策だけでなく、個々の事業所での取り組みも重要です。処遇改善加算を積極的に取得する、職員の資格取得を支援する、相談窓口を設けて人間関係の問題を早期に解決する、採用活動に時間と費用を投資するなど、魅力的な職場づくりを進める事業所が増えています。
実際、「待ちの採用」から脱却し、SNSや採用サイトで職場の魅力を積極的に発信する事業所は応募者数を増やしています。介護の仕事には「人の役に立てる」「専門性が身につく」「全国どこでも働ける」といった魅力があるにもかかわらず、それが十分に伝わっていないケースも多いのです。
また、短時間勤務や季節限定勤務など多様な働き方を受け入れる事業所も増えており、育児や介護と両立したい人材の確保につながっています。事業所ごとの工夫次第で、人手不足の状況を改善できる可能性は十分にあります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 介護職の離職率は本当に高いのですか?
A: いいえ、介護職の離職率は13.8〜15.3%で全産業平均(14.2%)とほぼ同水準です。「離職率が高い」というのはイメージが先行している面があります。
Q2: 介護職の給与は今後上がる見込みはありますか?
A: 国は処遇改善加算の拡充により、2024〜2025年度で月額6,000円相当のベースアップを目指しています。ただし介護保険制度の制約により、劇的な改善は難しいのが現状です。
Q3: 人手不足が最も深刻なのはいつまで続きますか?
A: 2025年から2040年にかけてが最も深刻な時期です。2040年以降は高齢者人口の増加が落ち着き、需要もピークアウトする見込みです。
Q4: 地方より都市部のほうが人手不足が深刻なのはなぜですか?
A: 都市部では高齢者人口の増加が著しく、有効求人倍率も高いためです。大都市部では7.65倍と全国平均の約2倍に達しています。
Q5: 介護職に若い人が集まらない最大の理由は何ですか?
A: 「きつい・給与が低い」というネガティブなイメージが強く、他業種に人材が流れやすいことが主な理由です。実際には全産業と比べて特別に離職率が高いわけではありません。
まとめ
介護職の人手不足は、需給ギャップの拡大、介護保険制度による給与の構造的制約、人間関係を中心とした離職問題という3つの構造的理由により深刻化しています。2025年には32万人、2040年には69万人が不足する見込みで、今後15〜20年が最も厳しい時期となります。
国による処遇改善やICT活用の推進に加え、各事業所が職場環境の改善や魅力的な情報発信に取り組むことが重要です。人手不足は一朝一夕には解消されませんが、社会全体で介護職の価値を見直し、働きやすい環境を整えることで、状況は徐々に改善していくでしょう。
介護の仕事に関心がある方は、事業所ごとの取り組みや働き方の多様性にも注目して、自分に合った職場を探すことをおすすめします。

