2020年のデータは現実になったか|介護人材不足6年の推移と施設の経営格差

福祉経営

2020年、厚生労働省は「2025年度までに約245万人の介護職員が必要であり、約55万人が不足する」と推計しました。その時点で対策を始めた施設と、対応を後延ばしにした施設の間には、今や取り返しのつかない経営格差が生まれています。本記事では、6年前の推計がどの程度現実化したか、当時の予測を信じて行動した施設と躊躇した施設の現状を事例分析し、今から3年で必要な対策を示します。

2020年の推計は正確だったのか

2020年時点の推計内容と精度検証

2020年の厚生労働省推計によれば、2016年の約190万人から2025年には約245万人へ、55万人の追加確保が必要とされました。年間6万人程度の採用目標が設定されました。

この推計は2026年の現在、ほぼ正確に現実化しています。2025年度の要介護認定者数は予測通り800万人超に達し、介護職員数は約215万人ですが、必要数との乖離は約25〜30万人と推計時と同等レベルです。

つまり、6年前の警告は決して過大ではなく、むしろ対策が間に合っていない実態を示しています。

有効求人倍率の推移が示す採用環境の悪化

2020年の介護職有効求人倍率は約3.95〜4.08倍でした。2026年の現在は約3.88倍とやや低下していますが、全職業平均1.15倍と比較すると、依然として3倍以上の深刻な人手不足が続いています。

注視すべきは「倍率の低下」ではなく「求人母数と採用母数の乖離」です。倍率が下がったのは求職者減少の影響で、実際には応募困難な施設がさらに増加しています。地方都市では有効求人倍率が7〜8倍に達する地域も存在し、採用環境は一層厳しくなっています。

2020年時点で対策を始めた施設 vs 躊躇した施設

対策先行施設の現状(好転ケース)

2020年当時、「2025年問題は確実に来る」と判断し、即座に人材確保戦略を立案した施設の例を見ます。

事例1:処遇改善と業務効率化を同時実装

  • 2020年から処遇改善加算制度を最大限活用し、職員給与を段階的に向上
  • 同時に介護記録の電子化、シフト管理システムを導入
  • 結果:2020年の離職率19%から2024年には14%へ低下、採用困難の中でも年間5〜6人の安定採用が実現
  • 効果:利用者数も190人(2020年)から250人(2026年)に増加

事例2:採用チャネルの多元化と外国人材受け入れ

  • 2020年に外国人材(特定技能)受け入れの検討を開始、2022年から実装
  • 同時に未経験者採用プログラムを構築
  • 結果:年間採用数が2020年の3人から2026年には10人以上に拡大
  • 効果:新規利用者受け入れが可能になり、売上高は30%増加

これら施設の共通点は、「2025年問題は不可避」と判断し、6年前から段階的に準備したことです。

対策遅延施設の現状(悪化ケース)

一方、2020年時点で「まだ大丈夫」と判断した、または対応を後延ばしにした施設の現状です。

事例3:対策なしで現在を迎えた小規模施設

  • 2020年:職員数15名、利用者80人、年間採用0人
  • 2022年頃から「人が足りない」という危機感が顕在化
  • 2024年以降:採用困難で対策開始も手遅れ
  • 現在(2026年):職員数13名(離職2名、採用0名)、利用者数70人に低下、営業収入14%減少
  • 経営状況:キャッシュフロー悪化で給与引き上げ余力なし、さらに離職加速の悪循環

事例4:急場しのぎで現在を迎えた大型施設

  • 2020年:職員100名、要介護者300人、採用困難だが「業界全体が同じ」と認識
  • 2024年:2025年問題を前に慌てて対策開始(4年遅延)
  • 外国人材受け入れを急遽決定も、準備期間6ヶ月が必要で実装は2025年
  • 現在:職員数98名(採用困難で目標未達)、利用者受け入れ待機者100人以上、経営危機寸前

対策遅延施設の特徴は、「業界全体が人手不足なら仕方ない」という諦めの姿勢と、対策開始の遅延です。

2020年からの6年間でなぜ差が開いたのか

複利効果:小さな改善の積み重ね

対策先行施設は、6年間で以下の複利効果を享受しました。

年1回改善 vs 年4回改善の違い:給与改善を例に取ると、対策先行施設は2020年から毎年段階的に給与を3%上げ続けました。一方、対策遅延施設は2024年から急に上げ始めました。

6年間の累積効果(複利)を計算すると、対策先行施設の給与は2020年比で約19%上昇、対策遅延施設は2024年からの2年で6%上昇に留まります。この差は、採用競争での「決定的な差」になります。

職員定着による人材資本の蓄積

対策先行施設の離職率改善により、経験豊富な職員が定着します。2020年に入職した職員が2026年に昇進・指導職になり、新人育成体制が充実。

一方、対策遅延施設は経験者の離職が続き、現場のナレッジが失われ、新人教育も困難化。この「人材資本の差」は3年では取り戻せません。

施設評判と採用難度の差

対策先行施設は「給与が改善され、環境もいい」という評判が形成され、求人への応募が増加。対策遅延施設は「人手不足で疲弊している」という評判が広がり、応募が減少。

2026年現在、同じ地域での採用倍率に2倍以上の開きが生じています。

2026年から2029年に必要な対策(遅延を取り戻すロードマップ)

対策遅延施設の緊急対策(即座に開始)

1.処遇改善加算の徹底活用(1ヶ月以内) 遅延施設でも、今から処遇改善加算を最大限活用することで、給与差を縮小できます。月5万円程度の上乗せが可能です。

2.外国人材の計画的受け入れ(3ヶ月以内に決定) 2026年内に受け入れ決定すれば、2027年から安定運用が期待できます。複数施設での共同受け入れで費用削減。

3.業務効率化の急速実装(3ヶ月で導入) 介護記録の電子化、見守りセンサー導入など、既知の手法を素早く導入。2027年までに月20時間以上の削減目標。

対策先行施設の次段階(さらに差を拡大)

1.採用数の増加加速化 基盤が整った施設は、採用数を2人→5人へ拡大。採用ペース加速で、3年で12人の採用増が可能。

2.処遇改善の加速 給与競争で先行優位を保つため、処遇改善を加算制度のみに頼らず、経営改善益を充当。相対的優位を維持。

3.組織体制の高度化 育成体制の充実、キャリアパスの明確化により、中堅職員の離職防止と新人定着率向上を同時実現。

2020年から学ぶべき教訓

教訓1:「予測を信じ、今から始める」ことの価値

2020年の推計は現在、ほぼ正確に現実化しました。6年前に対策を始めた施設と始めなかった施設の格差は、決して埋められない水準に達しています。

予測に「完全性」を求めず、一定の確度があれば即座に行動を始めることの重要性が明確です。

教訓2:「業界全体が困っているから」という諦めの危険性

人手不足は業界全体の課題ですが、その中でも対応の早さにより施設ごとの格差が生じます。「みんなが困っているから仕方ない」という思考は、競争環境で最も危険な判断です。

教訳3:「対策の遅延は指数関数的なコストになる」

1年遅延は1年分の損失ではなく、複利効果により指数関数的に拡大します。給与改善の遅延、採用困難の継続、経営悪化による給与原資不足——この連鎖は加速度的に進みます。

よくある質問(FAQ)

Q1:2020年の予測がこれほど正確だったことに驚きます。今の予測も信頼できますか?

A:2026年の推計は「2026年度に約240万人必要、2040年度に約272万人必要」とされています。この推計も、同等の精度と考えるべきです。つまり、今から対策を始めた施設と始めない施設の差は、3年後の2029年にも、現在の差と同等レベルに拡大する可能性が高いです。

Q2:すでに対策が遅れてしまった施設は、何から始めるべきですか?

A:優先度は①処遇改善加算の活用、②外国人材受け入れの意思決定、③業務効率化の急速実装です。この3つを3ヶ月で決定・開始すれば、2027年の目標設定が可能になります。完全な挽回は困難ですが、追いつくことは可能です。

Q3:小規模施設と大規模施設では、対策内容は異なりますか?

A:基本的には同じ(給与改善、業務効率化、採用戦略)ですが、優先順位が異なります。小規模施設は①給与改善、②採用チャネル多元化を優先。大規模施設は①業務効率化、②採用数拡大を優先する方が、経営資源の最適化につながります。

Q4:2020年時点で対策を開始した施設は、本当に経営が改善したのですか?

A:改善した施設と改善しなかった施設の差は二極化しています。改善施設は「処遇改善+業務効率化」を同時実装した場合のみ成功しており、「給与改善のみ」では効果が限定的です。複合的アプローチが必須です。

Q5:2029年までにできる現実的な改善は何ですか?

A:段階的に3年で対策を実装した場合、離職率10%、採用増3人(小規模施設)、新規利用者受け入れ20%増が現実的な目標です。完全解決ではありませんが、経営安定化には十分です。

まとめ

2020年の推計は6年後の現在、ほぼ正確に現実化しました。その間に対策を始めた施設と躊躇した施設の経営格差は、決して埋められない水準に拡大しています。

重要な教訓は「予測の完全性を待つのではなく、一定の確度で即座に行動を始めることの価値」です。対策が1年遅延するごとに、複利効果により競争劣位は指数関数的に拡大します。

今から3年間(2026年〜2029年)で対策を実装すれば、経営安定化は十分に可能です。2020年に対策を始められなかった施設も、今から遅くありません。着実に進めることが、次の3年の格差を決定します。

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