介護職人員不足の現状はどこまで深刻?
介護職の有効求人倍率は4.08倍(2024年厚生労働省)と、全産業平均1.14倍の約4倍に達しています。これは1人の求職者を4つの事業所が奪い合う状況を意味します。
さらに厚生労働省の推計によれば、2025年度には約32万人、2040年度には約57万人の介護職員が不足すると予測されています。現在の介護職員数は約212.6万人(2023年度)ですが、2040年には272万人が必要となるため、年間約6万人のペースで人材を確保しなければなりません。
特に深刻な「訪問介護」の実態
サービス種別で見ると、訪問介護の人手不足は突出しています。訪問介護の有効求人倍率は15.53倍(2023年)と、施設系サービスの約3倍の水準です。実際に訪問介護員の数は減少傾向にあり、2023年度には前年比で約2万人減少しました。
離職率と定着の課題
介護職員の離職率は13.6%(2023年度、業界調査)で、全産業平均14.2%とほぼ同水準です。「介護は離職率が高い」というイメージがありますが、実は数字上は平均的です。
ただし施設間の格差が大きく、約50%の施設は離職率10%未満である一方、約10%の施設では離職率30%以上という二極化が見られます。つまり職場環境次第で定着率は大きく変わるということです。
人員不足が起こる3つの主な原因
①労働人口の減少と高齢化の加速
日本全体の生産年齢人口(15~64歳)は減少を続けており、2065年には4,529万人まで減少すると推計されています。一方で65歳以上の高齢者は2025年に約3,653万人、75歳以上は約2,155万人に達する見込みです。
つまり介護サービスを必要とする人は増え続けるのに、働き手は減り続けるという構造的な問題があります。実際、要介護認定者数は2000年の256万人から2023年度末には708万人へと約2.8倍に増加しました。
②賃金と社会的評価の低さ
介護職員の平均月給は30.64万円(2024年厚労省「賃金構造基本統計調査」)で、全産業平均を下回る水準です。特に訪問介護員の平均年収は約290万円と、介護職の中でも低い傾向にあります。
また業界調査では、離職理由として「収入が少なかった」を挙げた人は20.5%でした。給与だけが問題ではありませんが、社会的評価の低さが賃金の低さとして表れている側面は否めません。
③職場の人間関係と運営への不満
離職理由として最も多いのは「職場の人間関係に問題があった」(34.3%)、次いで「事業所の理念や運営のあり方に不満があった」(32.1%)です(業界調査)。
給与への不満(20.5%)を上回る数字であり、金銭面以上に職場環境や人間関係が定着の鍵となっています。実際、定着率の高い施設の特徴として「良好な人間関係」(62.7%)、「残業が少ない・有給が取りやすい」(57.3%)が上位に挙げられています。
今すぐできる対策3選と中長期施策4選
【即効性あり】今すぐ取り組める3つの対策
①シフトの柔軟化と有給休暇の取得推進
短時間勤務、曜日限定勤務、夜勤専従など多様な働き方の選択肢を用意することで、育児中や高齢の職員も働きやすくなります。ある施設ではシフト柔軟化により、離職率が前年比60%改善した事例もあります。
また有給休暇の取得率向上は、職員満足度に直結します。取得計画を立て、管理職から率先して取得する文化づくりが重要です。
②職場環境の改善と感謝の可視化
定期的な職員アンケートで不満点を吸い上げ、改善できる点から着手します。また「サンキューカード」など、職員同士が感謝を伝え合う仕組みを導入し、職場の人間関係を良好に保つ工夫が効果的です。
ある施設では月1回の職員交流会と感謝カード制度の導入により、職員アンケートの満足度が20ポイント上昇しました。
③既存職員の業務負担軽減
人手不足の中では、既存職員が疲弊して離職する悪循環を防ぐことが最優先です。業務の見直し、記録方法の簡素化、チーム制の導入などで、一人あたりの負担を減らす取り組みが必要です。
【中長期】投資が必要だが効果の高い4つの施策
④処遇改善加算の積極的な取得・活用
2024年度の介護報酬改定で処遇改善加算が一本化され、ベースアップ要件として2024年度2.5%、2025年度2.0%の賃金引上げが目指されています。
処遇改善加算を最大限活用すれば、職員の月給を平均5.7万円引き上げることが可能です(厚労省実績データ)。加算取得には事務手続きが必要ですが、賃金改善効果は大きく、人材確保の武器になります。
⑤情報システム・介護ロボットの導入
タブレット端末での記録入力、見守りセンサー、移乗支援機器などの導入により、記録時間を42%削減した事例があります(厚労省情報システム導入支援事業)。
初期費用は50万~200万円程度かかりますが、国や自治体の補助金(導入費用の最大75%補助)を活用できます。業務効率化により職員の身体的・精神的負担が軽減され、定着率向上につながります。
⑥外国人介護人材の受入れ
経済連携協定、在留資格「介護」、特定技能1号など、複数のルートで外国人材を受け入れられます。特に特定技能は、日本語能力試験N4レベル+介護技能試験合格で取得でき、即戦力として期待できます。
ただし言語教育、生活支援、文化的配慮などのサポート体制が不可欠です。受入れの初期費用は30万~50万円、継続的な支援コストも発生します。
⑦採用活動の強化とブランディング
求人媒体の見直し、採用サイトの充実、職場見学会の開催、SNSでの情報発信など、施設の魅力を積極的に伝える取り組みが必要です。
「働きやすさ」「やりがい」「キャリアパス」を具体的に示すことで、他施設との差別化が図れます。ある施設では職場環境改善の取り組みをSNS発信したところ、応募者数が前年比2倍になりました。
外国人材受入れの現実と注意点
外国人介護人材の受入れは有効な対策ですが、「導入すれば解決」という万能薬ではありません。
言語と文化のサポートが必須
日本語能力が十分でない場合、利用者・家族とのコミュニケーションや記録業務で困難が生じます。継続的な日本語教育(週1~2回、年間20万~30万円)と、生活面でのサポート(住居、銀行口座、役所手続き等)が不可欠です。
定着率の課題
経済連携協定の介護福祉士候補者の場合、3年以内の離職率は約30%というデータもあります。離職理由は「給与への不満」「職場の人間関係」「母国への帰国希望」などです。
特定技能人材も、より条件の良い施設への転職が可能なため、受入れ後の処遇・環境整備が定着の鍵となります。
受入れ施設の準備
多文化理解の研修、宗教・食習慣への配慮、日本人職員との交流機会づくりなど、施設全体での受入れ体制構築が成功の条件です。「外国人材だけに負担を強いる」状況では、早期離職につながります。
よくある質問
Q1:2025年問題とは具体的に何ですか?
A:2025年には団塊世代が全員75歳以上(後期高齢者)となり、介護ニーズが急増します。厚労省は2025年度に約245万人の介護職員が必要と推計しており、現状から年間約6万人の追加確保が必要です。
Q2:なぜ訪問介護の人手不足が特に深刻なのですか?
A:訪問介護は移動時間が多く効率が悪い、一人で対応する精神的負担が大きい、賃金が施設より低い傾向があるなどの理由で、有効求人倍率は15.53倍と突出しています。実際にヘルパー数は減少傾向です。
Q3:処遇改善加算を取得すると、どれくらい給与が上がりますか?
A:加算を最大限活用すれば、職員一人あたり月給平均5.7万円の改善効果があります(厚労省実績)。2024年度改定では一本化された加算でベースアップ2.5%(2024年度)、2.0%(2025年度)が目標とされています。
Q4:情報システム導入にはどれくらい費用がかかりますか?
A:タブレット端末・記録ソフト・見守りセンサーなどで50万~200万円が目安です。ただし国や自治体の補助金(導入費用の最大75%補助)が利用でき、実質負担は大幅に軽減されます。業務効率化により記録時間42%削減の実績もあります。
Q5:外国人介護人材の定着率はどれくらいですか?
A:経済連携協定の介護福祉士候補者の場合、3年以内の離職率は約30%というデータがあります。定着のカギは日本語教育・生活支援・職場での受入れ体制です。特定技能人材も、処遇・環境が良ければ定着しますが、転職も可能なため継続的なケアが必要です。
まとめ
介護職の人員不足は、有効求人倍率4.08倍、2040年57万人不足という深刻な状況です。原因は①労働人口減少と高齢化、②賃金・社会的評価の低さ、③職場環境・人間関係の問題という3つの複合的要因です。
対策は「今すぐできる即効策」と「投資が必要な中長期施策」の両輪が必要です。即効策としてはシフト柔軟化・有給取得推進・職場環境改善、中長期施策としては処遇改善加算の活用・情報システム導入・外国人材受入れ・採用強化が有効です。
特に重要なのは、給与だけでなく職場の人間関係や働きやすさが定着の鍵という点です。まずは自施設の課題を職員アンケート等で把握し、優先順位をつけて対策に取り組むことが、人員不足解消への第一歩となります。

