はじめに
高齢者介護の人手不足は、少子高齢化による要介護者の急増と、低賃金・厳しい労働環境による離職率の高さが主因です。
日本では2040年に介護職員272万人が必要とされる中、約57万人(21%)が不足すると厚生労働省が試算しています。令和5年度の介護職員離職率は13.6%に達し、特に都心部では有効求人倍率が4.91倍と深刻な人材難が続いています。
この記事では、高齢者介護の人手不足の現状、3つの深層要因、事業所・職員・利用者への影響、そして今すぐ実践できる7つの対策を、最新データとともに解説します。
高齢者介護の人手不足はどれほど深刻?【2025年・2040年問題】
数字で見る深刻度
高齢者介護の人手不足は、以下のデータから明らかです。
- 2040年:介護職員272万人必要 → 約57万人不足(21%)
- 令和5年度介護職員離職率:13.6%(訪問介護員11.8%)
- 大都市部の介護職有効求人倍率:4.91倍(全職種平均の約4倍)
- 65歳以上人口:2025年に約3,677万人(総人口の約30%)
- 75歳以上人口:2040年にピーク到達
出典:厚生労働省「介護人材確保の現状について」、介護労働安定センター「介護労働実態調査」
2025年問題と2040年問題とは
2025年問題
団塊世代(1947~1949年生まれ)が全員75歳以上の後期高齢者となり、医療・介護需要が爆発的に増加する社会課題です。
- 75歳以上人口:約2,180万人(2025年)
- 要介護認定者:約690万人(2025年予測)
- 必要な介護職員:約243万人(2023年比で約28万人増)
2040年問題
2040年頃に65歳以上の高齢者人口がさらに増加し、2025年以上に深刻な人材不足が顕在化します。
- 65歳以上人口:全人口の約35%(2040年)
- 85歳以上人口:中心的に増加
- 生産年齢人口(15~64歳):大幅減少
- 社会全体の労働力不足、国力低下が懸念される
出典:政府「高齢社会白書」
高齢者介護の需給ギャップの推移
実際に要介護認定者数は急増しています。
- 2018年10月:655.8万人
- 2040年:988万人(ピーク予測)
- 3年間(2015~2018年)で36万人増加
一方、介護職員数の増加は需要に追いついていません。
- 2000年:54.9万人
- 2016年:183.3万人
- 2016年時点で約7万人不足
- 2020年までに26万人、2025年までに55万人の追加確保が必要
出典:厚生労働省「介護保険事業状況報告」
高齢者介護の人手不足が起きる「3つの深層要因」
高齢者介護の人手不足には、表層的な原因だけでなく、構造的・本質的な要因が重なっています。
①少子高齢化による「支える側」と「支えられる側」のアンバランス
要介護者の急増
- 2018年:655.8万人 → 2040年:988万人(約1.5倍)
- 特に85歳以上人口が中心的に増加
- 医療の高度化により、重度要介護者も増加
介護人材の減少
- 生産年齢人口(15~64歳)の減少:ほぼ全ての地域で減少
- 少子化の加速:出生数80万人割れ(2022年)
- 介護職を担う若年層の絶対数が減少
結果として、支える側(働き手)が減少し、支えられる側(高齢者)が増加するアンバランスが深刻化しています。
②仕事内容に対する社会的評価・賃金の低さ
「3K」イメージ
高齢者介護は「きつい、汚い、危険」の「3K」イメージが根強く、若年層の就職先として敬遠されがちです。
賃金の低さ
介護職の平均月収は、他業種と比較して著しく低い水準です。
- 社会保険・社会福祉・介護サービス:249,800円
- 医療業:349,300円(約10万円高い)
- サービス業:420,600円(約17万円高い)
出典:総務省統計局「賃金構造基本統計調査」
この賃金格差が、介護職への就職・転職の大きな障壁となっています。
社会的評価の低さ
「誰にでもできる仕事」という誤った認識が社会に根強く、専門職としての評価が不十分です。
③人間関係の問題と厳しい労働環境
離職理由の上位
介護職の離職理由(複数回答)は以下の通りです。
- 人間関係の問題:20.0%
- 結婚・出産・育児:18.3%
- 法人・事業所の理念や運営への不満:17.8%
- 収入が少ない:15.0%
出典:公益財団法人 介護労働安定センター調査
人間関係の問題が最多であり、職場環境の改善が急務です。
厳しい労働環境
- 身体的負担:移乗介助、入浴介助など体力を要する作業
- 精神的負担:認知症ケア、利用者・家族とのコミュニケーション、夜勤・オンコール対応
- 長時間労働:人手不足により一人当たりの業務量増加
- ワークライフバランスの困難:シフト勤務、休暇取得の難しさ
これらの要因が重なり、高い採用難と高い離職率という悪循環を生んでいます。
高齢者介護の人手不足が及ぼす3つの影響
①介護事業所への影響:経営難とサービス縮小
採用コスト高騰
有効求人倍率4.91倍(大都市部)の環境下、採用には多大なコストがかかります。
- 求人広告費の増加
- 紹介会社への手数料(年収の20~30%)
- 採用活動の長期化
人件費の上昇
人材確保のため、給与水準を引き上げる必要がありますが、介護報酬は固定されているため、経営を圧迫します。
サービスの縮小・廃業
人手不足により、以下の事態が発生しています。
- 新規利用者の受け入れ停止
- 提供サービスの縮小
- 事業所の廃業(特に小規模事業所)
実例:訪問介護事業所の倒産は2024年に67件と過去最多を記録。
②介護職員への影響:負担増と離職の悪循環
一人当たりの業務量増加
人手不足により、既存職員の負担が増大します。
- 利用者数増加に対応できず、一人当たりのケア時間が短縮
- 残業時間の増加
- 休暇取得の困難
心身の疲弊
過重労働により、心身の健康を損なう職員が増加します。
- 腰痛、膝痛などの身体的疾患
- うつ病、適応障害などの精神疾患
- バーンアウト(燃え尽き症候群)
離職の悪循環
職員の離職 → 残った職員の負担増 → さらなる離職 → 人手不足の深刻化
この悪循環を断ち切るには、新規採用と定着支援の両輪が必要です。
③利用者・家族への影響:サービス利用困難と介護離職
サービスが受けられない
人手不足により、以下の事態が発生しています。
- 待機者の増加:特別養護老人ホームの待機者は全国で約29万人(2021年)
- 退院後の受け入れ先なし:病院から退院を促されても、在宅サービスが確保できない
- 緊急時対応の困難:急変時の訪問、ショートステイの緊急利用ができない
家族の介護負担増加
介護サービスが利用できないため、家族が介護を担う必要があります。
- 介護離職:年間約10万人が介護のために離職(総務省「就業構造基本調査」)
- 介護うつ、介護疲れ:家族の心身の健康悪化
- 介護殺人・心中:極端なケースも報道される
利用者の尊厳とQOL(生活の質)の低下
人手不足により、十分なケアが提供できず、利用者の尊厳や生活の質が低下します。
- 個別ケアの不足(画一的な対応)
- コミュニケーション時間の減少
- 事故・トラブルのリスク増加
今すぐできる7つの実践対策【国・事業所レベル】
高齢者介護の人手不足対策を、国レベルと事業所レベルに分けて解説します。
【国レベル】政府が進める5つの取り組み
①介護職員の処遇改善
処遇改善加算制度により、給与水準の引き上げを推進しています。
- 2019年10月~:総額2,000億円を投じた処遇改善
- 平成21年度~令和元年度:月額平均5.7万円改善
- 令和3年度介護報酬改定:+0.70%の処遇改善
ベースアップ等支援加算:令和4年10月から、介護職員の収入を3%程度(月額平均9,000円)引き上げる新たな加算を創設。
出典:厚生労働省「介護職員の処遇改善について」
②多様な人材の確保・育成
幅広い層からの人材確保を支援しています。
- 修学資金貸付制度:介護福祉士養成施設の学生への貸付(卒業後一定期間勤務で返済免除)
- 未経験者向け研修:介護職員初任者研修の受講支援
- 他業種からの転職支援:職業訓練の拡充
- 中高年の活用:定年後のシニア人材、主婦層の再就職支援
③介護職員の定着支援と労働環境改善
離職率を下げるため、働きやすい環境整備を支援しています。
- 介護ロボット・ICT導入支援:記録業務の効率化、移乗介助の負担軽減
- 腰痛予防対策:福祉用具(リフト、スライディングシート等)の導入支援
- メンタルヘルス対策:相談窓口の設置、カウンセリング支援
- 多様な働き方の推進:短時間正社員、週3日勤務など柔軟な勤務形態
④介護職のイメージ向上
社会的認知度を高め、若年層の就職先として魅力を発信しています。
- 介護職魅力発信事業:全国でのPRイベント、SNS発信
- 学校教育での介護理解促進:中学・高校での職場体験、キャリア教育
- メディアでの好事例紹介:やりがいやキャリアパスを持つ介護職員の特集
⑤外国人材の受け入れ環境整備
外国人介護人材の受け入れを推進しています。
- 特定技能ビザ:介護分野での外国人労働者受け入れ
- EPA(経済連携協定):インドネシア、フィリピン、ベトナムから介護福祉士候補者受け入れ
- 技能実習制度:介護職種の追加
- 日本語教育・生活支援:外国人材の定着支援
【事業所レベル】今すぐ実践できる7つの対策
①処遇改善加算の最大活用
国の処遇改善制度を最大限活用し、給与をアップします。
未取得の事業所は今すぐ申請を検討しましょう。
- 処遇改善加算Ⅰ~Ⅴ
- 特定処遇改善加算
- ベースアップ等支援加算
②ICT・介護ロボット導入による業務効率化
記録業務、情報共有、移乗介助の負担を大幅に軽減します。
導入例:
・クラウド型介護記録ソフト:手書き記録からタブレット入力へ(記録時間1/3に短縮)
・見守りセンサー:夜間巡回の負担軽減
・移乗支援ロボット:腰痛予防、介助者の身体負担軽減
・チャットツール:スタッフ間の迅速な情報共有
助成金:
・ICT導入支援事業:都道府県により最大100万円補助
・介護ロボット導入支援事業:1台当たり最大30万円補助
③柔軟な働き方の導入
多様な働き方を提供し、幅広い人材を確保します。
- 短時間正社員制度:週20~30時間勤務
- 曜日固定勤務:「月・水・金のみ」など
- 夜勤専従:高時給の夜勤専門職員
- 在宅勤務(リモートワーク):記録作業、ケアプラン作成等を自宅で実施
④職場環境改善と人間関係の良好化
離職理由第1位の「人間関係」を改善します。
- 定期的な1on1面談:管理者と職員の個別面談(月1回)
- チームビルディング研修:職員間の信頼関係構築
- ハラスメント防止:相談窓口の設置、研修実施
- 評価制度の透明化:昇給・昇格基準の明確化
⑤キャリアパスの明確化
将来像を見せることで、長期的なモチベーションを維持します。
キャリアパス例:
・1~3年目:介護職員初任者研修 → 実務者研修
・4~5年目:介護福祉士取得 → リーダー職
・6~10年目:ケアマネジャー、サービス提供責任者、管理者
資格取得支援:
・受験料・受講料の補助
・勤務時間中の研修受講許可
・合格報奨金制度
⑥未経験者・他業種からの転職者支援
門戸を広げ、多様な人材を受け入れます。
- プリセプター制度:経験豊富な職員が新人をマンツーマン指導
- 段階的な独り立ち支援:最初は見学・補助、徐々に単独業務へ
- 介護職員初任者研修の受講支援:費用負担、勤務時間調整
- 入職後フォロー面談:1週間、1ヶ月、3ヶ月後に実施
⑦事業所の魅力発信(採用マーケティング)
知名度を上げ、応募者を増やします。
- ホームページの充実:職員インタビュー、1日の流れ、職場環境紹介
- SNS活用:SNS各種でての日常発信
- 求人サイトの工夫:写真・動画を多用、待遇を明確に記載
- 地域イベント参加:介護の日イベント、就職フェア出展
- リファラル採用(紹介採用):職員からの紹介に報奨金
よくある質問(FAQ)
Q1: 高齢者介護の人手不足の最大の原因は何ですか?
A: 少子高齢化による要介護者の急増(2018年656万人→2040年988万人)と、低賃金・厳しい労働環境による離職率の高さ(13.6%)が主因です。支える側(働き手)が減少し、支えられる側(高齢者)が増加するアンバランスが深刻化しています。
Q2: 2040年にはどれだけ介護職員が不足しますか?
A: 2040年には介護職員272万人が必要とされる中、約57万人(21%)が不足すると厚生労働省が試算しています。生産年齢人口の減少と85歳以上人口の増加により、社会全体の労働力不足が加速します。
Q3: 介護職の給与は他業種と比べてどれくらい低いですか?
A: 介護職の平均月収は約249,800円で、医療業(349,300円)より約10万円、サービス業(420,600円)より約17万円低い水準です。ただし、処遇改善加算により、平成21年度から令和元年度で月額平均5.7万円改善されています。
Q4: 介護事業所が今すぐできる人手不足対策は?
A: ①処遇改善加算の最大活用(給与アップ)、②ICT・介護ロボット導入(業務効率化、助成金活用)、③柔軟な働き方導入(短時間正社員、曜日固定)、④職場環境改善(1on1面談、ハラスメント防止)が有効です。特にICT導入は記録時間を1/3に短縮できます。
Q5: 外国人介護人材の受け入れ方法は?
A: ①特定技能ビザ(介護分野)、②EPA(経済連携協定、インドネシア・フィリピン・ベトナム)、③技能実習制度の3つのルートがあります。日本語教育や生活支援が重要で、厚生労働省の支援制度を活用できます。
まとめ
高齢者介護の人手不足は、2040年に約57万人(21%)規模に達すると予測され、少子高齢化、低賃金・厳しい労働環境、人間関係の問題という3つの深層要因が絡み合っています。
この課題は、介護事業所の経営難、職員の負担増と離職、利用者・家族のサービス利用困難という3つの悪影響を及ぼしています。
今すぐできる対策:
・処遇改善加算の最大活用(給与アップ)
・ICT・介護ロボット導入(業務効率化、助成金活用)
・柔軟な働き方導入(短時間正社員、曜日固定)
・職場環境改善(1on1面談、キャリアパス明確化)
介護事業所の経営者・管理者の皆様は、国の支援制度を最大限活用しながら、「今すぐできる対策」から着手し、2025年・2040年問題に備えましょう。
参考資料:
・厚生労働省「介護人材確保の現状について」
・介護労働安定センター「介護労働実態調査」
・厚生労働省「介護職員の処遇改善について」
・政府「高齢社会白書」

