なぜ介護士が集まらず、すぐ辞めてしまうのか?
「求人を出しても応募がない」「採用してもすぐ辞めてしまう」という悩みを抱える施設が増えています。介護士の不足は2025年度に約32万人、2040年度には約69万人に達すると推計され、事業継続の危機に直面する施設も出始めています。
本記事では、介護現場で12年働いた経験から、介護士不足の根本原因と5つの具体的解決ステップを提示します。処遇改善から業務効率化、多様な採用戦略まで、実行可能なアクションを優先順位とともに解説し、持続可能な人材確保の道筋を示します。
介護士不足の深刻な実態│数字が語る現状
2025年・2040年問題と必要人数
厚生労働省の第9期介護保険事業計画によると、2026年度には約240万人の介護職員が必要とされています。しかし2023年度の実績は約215万人で、約25万人が不足する計算です。
さらに2040年度には約280万人が必要となり、約69万人の不足が見込まれています。これは必要人数の約24%に相当し、4人に1人の介護士が足りない計算になります。現場では10人体制が必要なのに7〜8人しか配置できない状況が常態化する恐れがあります。
有効求人倍率と採用困難の現実
介護職員の有効求人倍率は3.65倍から3.97倍で推移し、全職種平均1.15倍の約3倍以上です。これは求職者1人に対して3〜4件の求人がある状態で、施設間の人材獲得競争が激化しています。
東京都では有効求人倍率が5倍を超える地域もあり、1人の求職者を複数の施設が奪い合う状況です。地方でも高齢化率が高い地域では絶対数の確保が困難で、全国的に介護士不足が深刻化しています。
離職率と定着の課題
令和5年度の介護職員離職率は13.1%、訪問介護員は11.8%でした。全産業平均15.4%より低い水準ですが、年間で1割以上の職員が退職している計算です。
特に勤続3年未満の離職が全体の約64%を占め、新人の定着が大きな課題となっています。採用にかかるコストと育成期間を考えると、既存職員の定着が最優先です。約6割の事業所が不足感を抱えており、訪問介護では約8割が深刻な不足を実感しています。
介護士不足の5大原因│構造的問題と現場の課題
原因1: 少子高齢化による構造的ミスマッチ
2026年には団塊世代が全員77歳以上となり、要介護認定者数は増加を続けています。2020年度の要介護認定者数は682万人で、今後も増え続ける見込みです。
一方で出生数は2023年に72万人と過去最少を更新し、生産年齢人口は減少を続けています。介護を必要とする高齢者は増え、支える側の若者は減るという構図が、介護士不足を構造的に生み出しています。2070年には高齢化率が38%を超え、問題は長期化する見通しです。
原因2: 賃金水準と処遇への不満
令和3年度の介護職員平均月給は約32万円で、全産業平均39万円より約7万円低い状況です。仕事の重要性や負担に対して賃金が不十分という声が多く、若年層の参入障壁となっています。
国は処遇改善加算などで賃金引き上げを進めていますが、十分な水準には至っていません。夜勤手当や資格手当があっても基本給が低く、キャリアアップによる昇給幅も限定的な施設が少なくありません。家族を養う立場の職員にとって、将来への不安が離職を促進しています。
原因3: 身体的・精神的負担の大きさ
介護職は移乗介助や入浴介助など身体的負担が大きく、腰痛などの職業病リスクが高い仕事です。夜勤や早朝勤務などの不規則なシフトにより、十分な休息が取れない職員も存在します。
記録業務や会議など間接業務の負担も大きく、ケア以外の作業に時間を取られます。人手不足により一人当たりの業務量が増加し、過重労働が常態化している職場も見られます。休暇が取りにくい環境も、心身の疲労を蓄積させる要因です。
原因4: 人間関係とハラスメント問題
令和5年度の調査で、離職理由の第1位は「職場の人間関係に問題があった」でした。職員同士の関係だけでなく、利用者や家族とのコミュニケーション、上司との意見の食い違いなど、多様な人間関係のストレスが存在します。
感情労働の側面が強い介護職では、精神的負担が蓄積しやすい特性があります。ハラスメント相談窓口がない施設では、問題が放置され深刻化するケースもあります。心理的安全性の低さが、早期離職を招いています。
原因5: ネガティブイメージと社会的評価
「きつい・汚い・危険」の3Kイメージに加え、「給料が安い・帰れない・厳しい」という新3Kイメージも定着しています。こうしたネガティブな情報が先行し、未経験者や若者の参入を阻んでいます。
実際には専門性が高くやりがいのある仕事ですが、ポジティブな情報発信が不足しています。社会的評価の低さが新規参入者の減少と定着率の低下を招き、悪循環を生んでいます。
解決ステップ1: 処遇改善の実行│3つの優先施策
施策1: 処遇改善加算の最大活用(準備期間: 2〜4ヶ月)
国の処遇改善加算制度を最大限活用し、職員の賃金を引き上げます。加算にはⅠ〜Ⅴの区分があり、キャリアパス制度の整備や職場環境改善の取り組みが要件です。
最も高いⅠを取得すれば、職員一人当たり月2〜3万円の給与増が実現でき、採用力と定着率が大幅に向上します。要件を満たすためのキャリアパス制度設計、評価基準の明確化、研修計画の策定を計画的に進めましょう。
つまずきポイントは「書類作成の煩雑さと要件の複雑さ」です。社会保険労務士や行政の相談窓口に相談し、他施設の事例を参考にすれば負担を軽減できます。
施策2: 独自の給与体系と手当の設計(着手期間: 3〜6ヶ月)
処遇改善加算に加え、独自の給与体系を設計します。資格取得による昇給、役職手当の充実、勤続年数に応じた賃金アップなど、職員の頑張りが正当に評価される仕組みを作ります。
介護福祉士資格取得者には月1〜2万円の資格手当、リーダー職には月2〜3万円の役職手当を支給するなど、具体的な金額を明示します。賞与の査定基準も透明化し、公平性を担保することで納得感が高まります。
施策3: 柔軟な働き方と福利厚生の充実(着手期間: 1〜3ヶ月)
時短勤務、パート・アルバイトの活用、シフトの多様化により、育児や介護と両立できる環境を整えます。週2〜3日勤務、午前のみ・午後のみの勤務など、個人の事情に合わせた選択肢を用意します。
有給休暇の取得促進、連続休暇の取得支援、希望休の柔軟な対応なども効果的です。社宅・寮の提供、交通費全額支給、食事補助など、金銭的な福利厚生も充実させましょう。
解決ステップ2: 業務効率化の推進│4つの実践手法
手法1: ICT・介護ロボットの導入(導入期間: 3〜6ヶ月)
ケア記録のデジタル化により、手書き作業を大幅に短縮します。タブレット端末で記録すれば、リアルタイムで情報共有が可能となり、申し送りの負担も減ります。
見守りセンサーを活用すれば、夜勤の巡回業務負担が軽減されます。利用者の異常を素早く検知し、必要な時だけ訪室すればよいため、職員の心身負担が大幅に減少します。移乗支援ロボットの導入で腰痛リスクも軽減できます。
国や自治体の補助金制度を活用すれば、導入コストを3〜5割削減できます。段階的に導入し、操作研修を丁寧に行うことで、ITに不慣れな職員も対応可能です。
手法2: 業務の標準化と役割分担の最適化(着手期間: 1〜2ヶ月)
専門職でなくても可能な業務を洗い出し、補助職員や事務員に振り分けます。清掃、配膳、リネン交換、受付対応などを分業すれば、介護士は専門性の高い業務に集中できます。
マニュアルを整備し、誰が実施しても同じ品質を保てる体制を構築します。業務フローを可視化し、無駄な作業を削減することで、残業時間の短縮につながります。
手法3: 記録・報告業務の簡素化(着手期間: 1〜2ヶ月)
記録様式を見直し、必要最小限の項目に絞ります。定型文やテンプレートを用意し、入力時間を短縮します。
音声入力機能を活用すれば、移動中や介助直後にも記録でき、後回しによる記憶の曖昧化を防げます。クラウド管理により、どこからでもアクセス可能となり、情報の一元化が実現します。
手法4: 多職種連携とオンライン活用(着手期間: 1〜3ヶ月)
看護師、リハビリスタッフ、栄養士などとの情報共有を円滑にすれば、重複作業が減ります。オンラインツールを活用すれば、時間や場所に制約されず連携できます。
外部研修もオンラインで受講できれば、シフト調整の負担が減り、より多くの職員が参加できます。録画機能を使えば、後日視聴も可能となり、学習機会が拡大します。
解決ステップ3: 職場環境の改善│3つの重点対策
対策1: 人間関係の改善とコミュニケーション活性化
定期的な1on1面談を実施し、職員の悩みや要望を聞き取ります。小さな問題でも放置せず、迅速に対応する姿勢を示せば、信頼関係が構築されます。
ハラスメント相談窓口を設置し、匿名で相談できる仕組みを整えます。チームミーティングで感謝を伝え合う文化を育て、お互いを尊重する雰囲気を作りましょう。職員同士が助け合える環境が、離職を防ぎます。
対策2: メンタルヘルスケアと健康管理
感情労働の負担を軽減するため、メンタルヘルス研修やカウンセリング機会を提供します。ストレスチェックを定期的に実施し、高ストレス者には個別支援を行います。
休憩時間の確保、リフレッシュルームの設置、職員同士の雑談時間の確保など、心身の回復を促す環境を整えます。疲労が蓄積する前に適切な休暇を取得できる体制を作りましょう。
対策3: 新人育成とキャリア支援の体系化
メンター制度やOJT研修を体系化し、先輩職員が丁寧に指導する仕組みを作ります。新人が早く現場に慣れ、介護のプロとして成長する意欲を育むことで、早期離職を防げます。
資格取得支援制度を充実させ、介護福祉士やケアマネジャーなどの資格取得費用を補助します。講座日程に合わせてシフトを調整するなど、資格取得しやすい環境を整備しましょう。
解決ステップ4: 多様な人材確保│3つの採用戦略
戦略1: 外国人材の積極的受け入れ(準備期間: 6〜12ヶ月)
特定技能、技能実習、EPAなどの在留資格で外国人材を受け入れます。2025年4月からは訪問系サービスにも従事可能となり、在宅介護の人材不足緩和が期待されます。
外国人材は若く、給与と住居があれば地方でも採用しやすい傾向があります。日本語教育、生活サポート、文化理解の支援など、受け入れ体制を整備すれば、長期的な戦力となります。
既存職員への事前説明と理解促進が成功の鍵です。「共に働く仲間」として受け入れる文化を作り、メンター制度で丁寧にサポートしましょう。
戦略2: 潜在介護士の掘り起こし(着手期間: 2〜4ヶ月)
資格はあるが働いていない潜在介護士は多数存在します。結婚・出産で離職した元職員、他業界に転職した有資格者などにアプローチし、復職を支援します。
ブランク研修、短時間勤務、週2〜3日勤務など、復職のハードルを下げる施策を用意します。育児と両立できる勤務時間帯、フレキシブルなシフトなど、個人の事情に配慮した働き方を提示しましょう。
戦略3: 未経験者・異業種からの転職者(着手期間: 継続的)
介護に関する入門的研修を実施し、未経験者が介護を知る機会を提供します。職場体験やマッチング支援を組み合わせ、研修から入職までつなげる一体的支援が効果的です。
他業種で培ったスキルを活かせる点をアピールします。接客業での対人スキル、営業職でのコミュニケーション能力、事務職での管理能力など、異業種経験が介護現場で活きる場面は多数あります。
解決ステップ5: 情報発信と魅力向上│2つの施策
施策1: 積極的な情報発信とイメージ改善
求人サイトやSNSで施設の魅力を具体的に発信します。現場で活躍する職員のインタビュー、やりがいエピソード、充実した研修制度などを紹介し、「働きたい」と思われる工夫をします。
3Kイメージを払拭するため、処遇改善の実績、働き方改革の取り組み、キャリアアップ事例など、ポジティブな情報を積極的に発信しましょう。見学会や体験会を開催し、実際の職場を見てもらう機会を作ります。
施策2: 地域連携と人材確保ネットワーク
地域包括ケアシステムの一員として、地域住民との交流を深めます。ボランティア受け入れ、地域イベントへの参加、介護教室の開催などを通じて、施設の認知度を高めます。
学校や職業訓練機関と連携し、実習生の受け入れを積極的に行います。良い実習体験が就職につながるケースも多く、将来の人材確保につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 介護士不足で今すぐできる対策は?
A: 既存職員との定期面談を即座に開始し、不満や要望を聞き取りましょう。小さな改善でも迅速に対応すれば離職防止につながります。次に業務を洗い出し、専門職でなくても可能な作業を補助職員に振り分けることで、即座に負担を軽減できます。
Q2: 処遇改善加算の取得は難しいですか?
A: 要件を満たすための準備は必要ですが、計画的に進めれば取得可能です。キャリアパス制度の整備、職場環境改善の取り組み、賃金改善の計画書作成などが求められます。社会保険労務士や行政に相談し、他施設の事例を参考にすれば、スムーズに進められます。
Q3: 外国人材受け入れの成功ポイントは?
A: 日本語教育と生活サポートが不可欠です。定期的な日本語研修、生活相談窓口、メンター制度を整備しましょう。既存職員への事前説明と理解促進も重要で、「共に働く仲間」として受け入れる文化を作れば、チーム全体が活性化します。
Q4: ICT導入の費用対効果はありますか?
A: 初期費用はかかりますが、記録時間の短縮により残業代が減少し、1〜2年で回収できるケースが多いです。国や自治体の補助金制度を活用すれば導入コストを3〜5割削減できます。まずは効果が出やすい記録システムから小規模で始め、段階的に拡大するのが賢明です。
Q5: 人間関係の問題を防ぐには?
A: 定期的な1on1面談、ハラスメント相談窓口の設置、チームビルディング研修が効果的です。管理者が職員の声に真摯に耳を傾け、小さな問題でも放置せず対応する姿勢が、信頼関係構築の鍵となります。感謝を伝え合う文化を育て、心理的安全性を高めましょう。
まとめ│5ステップで持続可能な人材確保を実現
介護士の不足は、処遇改善、業務効率化、職場環境改善、多様な人材確保、情報発信という5つのステップで解決に近づきます。国の支援制度を最大限活用しながら、施設独自の魅力を高める取り組みを並行して進めることが重要です。
すべてを一度に実行する必要はありません。まず職員との対話、処遇改善加算の検討、業務の洗い出しなど、できることから始めましょう。小さな改善を積み重ねることで、職員が「この職場で働き続けたい」と感じる環境が生まれます。
2025年・2040年問題が迫る中、今日からできる一歩を踏み出してください。あなたの施設の未来は、今この瞬間の決断と行動で変わります。

