訪問介護の人員不足はなぜ深刻?2025年問題と今できる5つの対策

福祉経営

はじめに

2024年、訪問介護事業所の倒産が過去最多の67件を記録しました。

訪問介護の人員不足は、低賃金に加え、単独訪問の孤独感や移動時間の無給負担など、訪問介護特有の働きにくさが主因です。さらに2025年問題が追い打ちをかけ、現場は危機的状況にあります。

本記事では、厚生労働省や民間調査機関の最新データをもとに、人員不足の現状と3つの深層要因、事業所・ヘルパー・利用者への影響、そして今すぐ実行できる5つの実践的対策を解説します。

訪問介護の人員不足の現状

数字で見る深刻度

訪問介護の人手不足は、統計データからも明白です。

厚生労働省の調査によると、2023年5月から2024年5月の1年間で、訪問介護員(ホームヘルパー)の数は7.2%減少しました。全国で数万人規模の減少です。

有効求人倍率は14.14倍(2023年度)。全産業平均の1.36倍と比較すると、訪問介護がいかに人材確保に苦しんでいるかがわかります。14人の求人に対し、応募者はわずか1人という計算です。

介護労働安定センターの調査では、訪問介護事業所の80%以上がホームヘルパー不足を実感しています。慢性的な人手不足が、現場の疲弊を生んでいます。

出典: 厚生労働省「介護労働実態調査」、介護労働安定センター

2024年の「倒産ラッシュ」

人手不足は、事業所の経営を直撃しています。

民間調査機関の調査によると、2024年の訪問介護事業所の倒産件数は67件で、過去最多を更新しました。

倒産理由の81%が「売上不振」、40%が「人手不足・ヘルパーの高齢化」です。利用者を確保できても、サービスを提供するヘルパーがいない。この悪循環が、事業所を追い込んでいます。

特に地方では、新規利用者の受け入れを停止する事業所が増加。訪問介護事業所の約60%が新規受入を制限している地域もあります。

出典: 民間調査機関

2025年問題との関係

2025年、団塊の世代(1947~1949年生まれ)が全員75歳以上となります。

厚生労働省は、介護職員全体で約32万人の不足を予測。訪問介護はその中でも特に深刻です。

理由は2つあります。第一に、在宅生活を希望する高齢者が増加し、訪問介護の需要が急増すること。第二に、ヘルパーの平均年齢が50.5歳と高く、60歳以上が多数を占めるため、2025年前後に大量離職が予想されることです。

需要急増と供給減少のダブルパンチ。これが「2025年問題」の本質です。

出典: 厚生労働省「介護人材確保に関する資料」

訪問介護の人員不足が起きる3つの深層要因

表層原因: 低賃金と厳しい労働条件

訪問介護の人員不足の第一の原因は、低賃金と過酷な労働環境です。

厚生労働省のデータによると、訪問介護員の平均年収は約380万円。全産業平均の458万円と比較して、約78万円低い水準です。

さらに深刻なのが、移動時間の無給問題です。ヘルパーは1日平均5件の利用者宅を訪問しますが、移動時間(平均2時間)は報酬の対象外。実質的な時給は、さらに低下します。

身体的負担も大きい。入浴介助、排泄介助、移乗介助など、体力を要する業務が中心です。加えて、単独訪問による精神的負担も無視できません。介護労働安定センターの調査では、85.3%のヘルパーが単独勤務に不安を感じていると回答しています。

緊急時の判断、利用者や家族との関係調整、医療職との連携など、すべてを一人で担う重圧。これが離職の大きな要因です。

出典: 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、介護労働安定センター「介護労働実態調査」

構造的原因: 2024年報酬改定のマイナス影響

2024年4月、介護報酬の改定が行われました。しかし訪問介護にとっては、逆風となりました。

訪問介護の基本報酬は2〜3%削減。事業所の収入が直接減少したのです。

一方で、処遇改善加算は拡充されました。最大で月37,000円/人の給与アップが可能です。しかし、この加算を取得するには、複雑な要件をクリアする必要があります。

キャリアパス制度の整備、研修計画の策定、賃金改善実績の報告など、小規模事業所には大きな負担です。結果として、加算を取得できない事業所が続出しています。

基本報酬削減と加算取得の困難さ。この二重の打撃が、事業所の経営を圧迫し、ヘルパーの待遇改善を阻んでいます。

出典: 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定」

本質的原因: 訪問介護の価値の社会的低評価

最も根深い問題は、訪問介護の専門性が社会的に正当に評価されていないことです。

訪問介護は「きつい・汚い・危険」の「3K」イメージが根強く、若年層の就職先として敬遠されがちです。

しかし実際には、高度な専門性が求められます。利用者の生活環境を観察し、心身の変化を察知し、医療・福祉チームと連携する。これらは、施設介護以上に高い判断力と対応力を要します。

利用者宅という「密室」で行われるため、この専門性は外部から見えにくい。結果として、「家事代行の延長」と誤解されるケースも少なくありません。

キャリアパスの不透明さも問題です。訪問介護員から介護福祉士への道は、実務経験と研修受講が必要で、時間がかかります。将来展望が描きにくく、若手の定着を妨げています。

社会的評価の向上と、明確なキャリアパスの整備。これが、人材確保の根本的な解決策です。

三者への影響: 事業所・ヘルパー・利用者

事業所の経営難

人手不足は、事業所の経営に深刻な影響を与えています。

まず、新規採用が困難です。有効求人倍率14.14倍という超売り手市場では、求人を出しても応募がありません。人材紹介会社を利用すると、1人あたり数十万円のコストがかかります。

結果として、サービス提供範囲の縮小を余儀なくされます。新規利用者の受け入れ停止、提供時間帯の制限、遠方エリアからの撤退など、収益機会を自ら減らさざるを得ないのです。

民間調査機関の調査では、訪問介護事業所の59.7%が新規受入を制限しています。

既存スタッフへの負担集中も深刻です。少数のヘルパーで多数の利用者を担当するため、長時間労働が常態化。これが次の離職を生む、負のスパイラルに陥っています。

出典: 民間調査機関

ヘルパーの離職サイクル

人手不足は、現場で働くヘルパーを疲弊させています。

介護労働安定センターの調査によると、新人ヘルパーの約30%が1年以内に離職します。

離職理由のTOP3は、以下の通りです。

第1位: 単独訪問による孤立感
チームで働く施設介護と異なり、訪問介護は基本的に一人で利用者宅を訪問します。困ったときに相談できる同僚がいない。この孤独感が、特に新人の離職を招いています。

第2位: 報酬への不満
前述の通り、移動時間が無給であることや、全産業平均を下回る年収水準が、不満の原因です。

第3位: キャリア展望の不透明さ
「この仕事を続けても、将来どうなるのか」という不安。昇給制度や役職ポストが少なく、モチベーション維持が難しいのです。

離職が人手不足を生み、人手不足が既存スタッフの負担を増やし、さらなる離職を招く。この悪循環が、現場を蝕んでいます。

出典: 介護労働安定センター「介護労働実態調査」

利用者・家族への影響

人手不足のしわ寄せは、最終的に利用者と家族に及びます。

最も深刻なのが、サービス拒否の増加です。特に地方では、新規の訪問介護依頼を断られるケースが増えています。ヘルパーがいないため、サービスを提供できないのです。

結果として、家族が仕事を辞めて介護に専念せざるを得ない「介護離職」が増加。政府調査では、年間約10万人が介護離職しています。

緊急時対応の遅延リスクも高まっています。ヘルパーの数が少ないと、急な体調変化や転倒などの緊急時に、迅速な対応ができません。

地域格差も広がっています。都市部では複数の事業所が競合していますが、地方では選択肢がありません。過疎地では、訪問介護そのものが成り立たなくなる「介護難民」のリスクが現実化しています。

在宅生活の継続を希望する高齢者が増える一方で、それを支える基盤が崩壊しつつあります。

出典: 政府調査「就業構造基本調査」

今すぐできる5つの実践的対策

人手不足の解消は容易ではありません。しかし、事業所・行政・個人レベルで実行可能な施策があります。優先度順に5つの対策を解説します。

対策1: 処遇改善加算の最大活用

最も即効性があるのが、処遇改善加算の最大活用です。

現行制度では、特定処遇改善加算を取得すると、月37,000円/人の給与アップが可能です。年間では44万円以上の収入増です。

しかし前述の通り、取得要件が複雑で、多くの事業所が活用できていません。

具体的な取得支援策:

  • 社会保険労務士の活用: 加算申請の専門家に依頼することで、要件クリアの確率が高まります。
  • 自治体の相談窓口: 都道府県の介護保険担当課には、加算取得の相談窓口があります。無料で利用できます。
  • 同業者とのノウハウ共有: 地域の訪問介護事業者連絡会などで、取得済み事業所のノウハウを共有しましょう。

給与アップは、採用力と定着率の向上に直結します。最優先で取り組むべき対策です。

出典: 厚生労働省「介護職員処遇改善加算」

対策2: ICTで業務効率化

ICT(情報通信技術)の活用は、ヘルパーの負担軽減と業務効率化に有効です。

具体的には、以下のツールが効果を上げています。

記録のデジタル化:
紙の業務日誌をタブレットやスマホアプリに置き換えます。導入事例では、記録業務の時間が年間200時間削減されました。

AIシフト管理:
ヘルパーの勤務希望と、利用者の訪問予定を自動マッチング。移動時間を最短化し、無駄な移動を減らします。

GPS活用:
ヘルパーの位置情報を事業所が把握することで、緊急時のサポートや、効率的なルート提案が可能になります。

厚生労働省は、ICT導入費用の補助金制度を設けています。1事業所あたり最大100万円の補助が受けられるケースもあります。

業務効率化は、ヘルパーの時間的・精神的余裕を生み、離職防止につながります。

出典: 厚生労働省「介護ロボット・ICT導入支援事業」、民間事業所の導入事例

対策3: 紹介採用とリファラル強化

採用コストを抑えつつ、ミスマッチを防ぐ手法が紹介採用(リファラル採用)です。

既存スタッフから知人・友人を紹介してもらう仕組みです。紹介者は職場の実情を知っているため、入職後のギャップが少なく、定着率が高まります。

効果を高める施策:

  • インセンティブ制度: 紹介が成功した場合、紹介者に報奨金(5〜10万円程度)を支給します。
  • 紹介キャンペーン: 「今月中に紹介すると特典あり」など、期間限定で促進します。
  • 紹介しやすい環境づくり: スタッフが「この職場を人に勧めたい」と思える職場環境を整えることが大前提です。

人材紹介会社の手数料(年収の30〜40%)と比較すると、大幅なコスト削減になります。

出典: 民間事業所の採用事例

対策4: 柔軟な働き方の導入

ヘルパー不足の解消には、多様な人材の活用が不可欠です。

従来の「フルタイム・週5日勤務」にこだわらず、柔軟な働き方を認めることで、採用の間口が広がります。

具体例:

  • 短時間勤務: 1日2〜3時間、週2〜3日の勤務でもOK。子育て中の主婦層などが働きやすくなります。
  • 副業OK: 他業種で働きながら、訪問介護を副業として行う。若手の参入障壁を下げます。
  • 土日のみ勤務: 平日は別の仕事、週末だけ訪問介護。多様なライフスタイルに対応します。

また、チームケア制の導入も効果的です。複数のヘルパーで利用者を担当することで、単独訪問の孤立感を軽減できます。

働き方の多様化は、採用力強化と離職防止の両面で効果があります。

対策5: 外国人材の戦略的受入

外国人介護人材の活用は、中長期的な人手不足対策の柱です。

現在、以下の3つのルートで外国人が訪問介護に従事できます。

①特定技能ビザ:
介護分野の試験に合格すれば、最長5年間就労可能。訪問介護も対象です。

②EPA(経済連携協定):
インドネシア、フィリピン、ベトナムとの協定に基づく受入。介護福祉士資格取得を目指します。

③技能実習:
3〜5年の実習期間。訪問介護は一定の条件下で認められています。

成功のポイント:

  • 日本語研修の充実: 業務に必要な日本語力(N3レベル以上)の習得支援。
  • 生活支援体制: 住居、通訳、メンタルケアなど、総合的なサポート体制が不可欠です。
  • 長期雇用を前提: 短期的な「人手不足の穴埋め」ではなく、キャリア形成を支援する姿勢が重要です。

外国人材の受入は、事業所の国際化や職場の活性化にもつながります。

出典: 厚生労働省「外国人介護人材の受け入れ」

よくある質問(FAQ)

Q1: 訪問介護は将来なくなる可能性はありますか?
A: なくなることはありません。政府調査では、高齢者の約80%が「最期まで自宅で暮らしたい」と回答しています。在宅生活を支える訪問介護の需要は、今後も増加します。

ただし、経営が成り立たない事業所の淘汰は進む可能性があります。質の高いサービスを提供し、経営基盤を強化した事業所が生き残るでしょう。

Q2: 2025年問題で具体的に何が起きますか?
A: 団塊の世代が全員75歳以上となり、訪問介護の需要が急増します。一方、ヘルパーの平均年齢が50.5歳と高いため、大量離職の時期と重なります。

厚生労働省は介護職員全体で約32万人の不足を予測しており、訪問介護は特に深刻です。需要増と供給減のダブルパンチにより、サービス提供体制の崩壊リスクが高まります。

Q3: ヘルパー不足で最も影響を受けるのは誰ですか?
A: 地方の独居高齢者、医療的ケアが必要な利用者が最も影響を受けます。地方では事業所の選択肢が少なく、新規受入停止や事業所閉鎖の影響が深刻です。

また、たん吸引などの医療的ケアができるヘルパーは限られており、対応できる事業所が減少しています。都市部でも、夜間・早朝のサービスや、認知症の行動・心理症状への対応が困難になっています。

Q4: 処遇改善加算は本当に効果がありますか?
A: 適切に活用すれば、大きな効果があります。特定処遇改善加算では月37,000円/人の給与増が可能で、年間44万円以上の収入アップになります。実際に加算を取得した事業所では、採用応募数の増加や離職率の低下が報告されています。

ただし、小規模事業所は要件クリアが難しく、恩恵を受けにくい課題があります。社労士や自治体の支援を活用し、積極的に取得を目指すべきです。

Q5: ヘルパー個人でできる対策はありますか?
A: 3つの対策が有効です。

第一に、ICTスキルの習得。タブレットやスマホアプリの操作ができると、業務効率が上がり、求人市場での価値も高まります。

第二に、介護福祉士資格の取得。資格保有者は給与水準が高く、キャリアの選択肢が広がります。

第三に、複数事業所での勤務。収入源を分散することで、経済的安定性が高まります。また、地域の事業者連絡会に参加し、情報交換や相互支援のネットワークを築くことも重要です。

まとめ

訪問介護の人員不足は、2024年の報酬改定と2025年問題により、さらに深刻化しています。

しかし、適切な対策を講じることで、状況を改善できます。

事業所は、処遇改善加算の最大活用とICT導入を最優先に取り組むべきです。柔軟な働き方の導入と、紹介採用の強化も効果的です。中長期的には、外国人材の戦略的受入が鍵となります。

ヘルパー個人は、ICTスキルと資格取得でキャリアアップを図りましょう。複数事業所での勤務や、地域ネットワークの活用も有効です。

政府には、訪問介護の報酬制度見直しと、社会的評価向上のための施策が求められます。訪問介護の専門性を正当に評価し、持続可能な制度設計が不可欠です。

在宅生活を希望する高齢者を支えるため、訪問介護の未来を守る取り組みを、今すぐ始めましょう。

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