訪問介護でICT補助金を活用すれば、最大260万円の導入費用を削減できます
訪問介護事業所の運営で、記録や報告業務に膨大な時間を費やしていませんか。ICT補助金を活用すれば、システム導入費用の2分の1から4分の3を補助してもらえます。本記事では、実際の申請手順から補助対象となる機器、よくある失敗とその対策まで、訪問介護に特化したICT補助金の活用法を詳しく解説します。筆者は過去3年間で15事業所のICT導入支援に携わり、補助金申請の実務経験から得た知見を共有します。この記事を読めば、申請から導入までスムーズに進められます。
訪問介護のICT補助金とは何か
訪問介護のICT補助金は、介護事業所のデジタル化を支援するための公的資金制度です。正式には「介護テクノロジー導入支援事業」として、令和7年度から介護ロボット導入支援とICT導入支援が統合されました。
この制度の目的は、介護職員の負担軽減と業務効率化にあります。訪問介護では、利用者宅での記録業務や事業所への報告作業に多くの時間がかかっています。ICT化により、現場で即座に記録を完了し、リアルタイムで情報共有が可能になります。
財源は地域医療介護総合確保基金で、各都道府県が運営しています。そのため、申請窓口や受付期間、細かな要件は自治体ごとに異なります。例えば神奈川県では補助率が5分の4まで引き上げられるケースもあり、東京都では独自の上乗せ支援を実施しています。
補助対象となる主な経費は、介護記録用の専用システム、タブレット端末やスマートフォン、インカムなどの通信機器、WiFi環境整備のためのルーターや配線工事費用などです。訪問介護では移動中の情報共有が重要なため、モバイル端末やインカムの導入が特に有効とされています。
令和7年度の主な変更点
令和7年度から要件が一部厳しくなりました。これまで別々だった介護ロボットとICT導入の補助事業が統合され、新たに第三者による業務改善支援の実施が必須となりました。具体的には、専門家による訪問指導を受けるか、厚生労働省が提供する生産性向上セミナーの動画を視聴する必要があります。
また、補助対象システムの要件も明確化されました。記録から請求までの業務が転記不要で一気通貫であること、ケアプランデータ連携標準仕様に対応していることなどが求められます。訪問介護事業所の場合、居宅介護支援事業所との情報連携が重要なため、この標準仕様対応は実務上も大きなメリットがあります。
ICT補助金を活用する3つのメリット
訪問介護事業所がICT補助金を活用することで、財務面だけでなく業務運営全体に大きな改善が期待できます。
メリット1:導入コストを最大75%削減
最大のメリットは、高額な初期投資を大幅に抑えられる点です。通常、訪問介護事業所でICTシステムを導入すると、初期費用として50万円から200万円程度が必要になります。
補助率は基本的に2分の1ですが、一定の条件を満たすと4分の3まで引き上げられます。条件は、ケアプランデータ連携システムを活用すること、LIFEのCSV連携仕様を実装したシステムでデータ登録を実施すること、ICT導入により文書量を半減させることなどです。
補助上限額は職員数に応じて設定されています。1人から10人の事業所で100万円、11人から20人で160万円、21人から30人で200万円、31人以上で260万円です。訪問介護の場合、訪問介護員だけでなく管理者や生活相談員も職員数に算入できます。さらに、訪問介護員は常勤換算ではなく実人数でカウントできるため、小規模事業所でも上限額を十分に活用できます。
メリット2:記録業務時間を約50%短縮
ICT導入により、紙ベースの記録作業が大幅に削減されます。ある訪問介護事業所では、導入前は1件の訪問記録に平均15分かかっていましたが、導入後は7分に短縮されました。
タブレット端末を活用すれば、利用者宅で記録を完結できます。手書きの記録を事業所に戻ってからパソコンに入力する二重作業がなくなり、転記ミスも防止できます。訪問先での入力内容は、事業所のシステムとリアルタイムで同期されるため、管理者も即座に状況を把握できます。
請求業務も効率化されます。記録データがそのまま請求データとして活用されるため、月末の集計作業が不要になります。国保連への伝送も自動化され、請求業務にかかる時間が従来の3分の1程度になった事例もあります。
メリット3:職員の定着率向上につながる
業務負担の軽減は、職員の働きやすさに直結します。訪問介護では、移動時間が長く、記録作業は勤務時間外になりがちでした。ICT化により、移動中や訪問先で記録を完了できるため、残業時間が削減されます。
情報共有もスムーズになります。インカムやチャット機能を使えば、緊急時の連絡や相談が即座にできます。特に新人職員にとっては、困った時にすぐ先輩に相談できる環境が安心感につながります。
実際に、ICTを導入した事業所では、職員の離職率が平均20%低下したというデータもあります。働きやすい環境は採用活動にもプラスに働き、人材確保の面でも有利になります。
ICT補助金申請の5ステップ実践ガイド
補助金申請は複雑に見えますが、手順を理解すれば難しくありません。申請から導入完了まで、通常3カ月から6カ月程度かかります。
ステップ1:所在地の都道府県情報を確認する(所要時間:30分)
まず、事業所がある都道府県の最新情報を確認します。各都道府県のホームページで、介護テクノロジー導入支援事業またはICT導入支援事業のページを探してください。受付期間は自治体により異なり、早いところでは4月から、遅いところでは8月頃に募集が始まります。
確認すべき主な項目は、申請受付期間、補助率と上限額、対象となるシステムの要件、必要書類一覧、申請方法(郵送またはメール)です。都道府県によっては、前年度から事前調査を行っているケースもあります。
つまずきポイントとして、募集開始の告知を見逃すことがあります。対策としては、都道府県の介護関連部署のメーリングリストに登録する、担当課に直接問い合わせて募集時期を確認するなどが有効です。
ステップ2:SECURITY ACTIONの自己宣言を完了する(所要時間:15分)
申請要件として、情報処理推進機構(IPA)が実施するSECURITY ACTIONの自己宣言が必要です。これは、中小企業が情報セキュリティ対策に取り組むことを示す制度です。
IPAのウェブサイトにアクセスし、一つ星または二つ星のいずれかを選んで宣言します。一つ星は5つの基本的なセキュリティ対策を実施することを宣言するもので、15分程度で完了します。宣言後、IPAから自己宣言完了のメールが届くので、このメールを補助金申請時に添付します。
宣言は申請前に必ず完了させてください。申請後の宣言は認められないケースがあります。また、宣言内容は事業所全体で実施する必要があるため、職員への周知も忘れずに行いましょう。
ステップ3:導入するシステムと機器を選定する(所要時間:1週間)
補助対象となるシステムの要件を満たす製品を選びます。主な要件は、記録・情報共有・請求業務が一気通貫であること、ケアプラン連携標準仕様に対応していること(訪問介護の場合)、LIFEとの連携機能があることなどです。
厚生労働省が公開している介護ソフト機能調査結果を参考にすると、対応状況を確認できます。複数の事業者から見積もりを取り、機能と価格を比較検討しましょう。訪問介護では、モバイル端末での使いやすさや、オフライン環境でも記録できる機能が重要です。
選定時の注意点として、補助金申請前に既に購入・リース契約を結んでいるものは対象外になります。必ず申請が承認されてから正式契約を結んでください。ただし、見積もりの取得や仮予約は申請前に行っても問題ありません。
ステップ4:導入計画書と申請書類を作成する(所要時間:3日)
都道府県が指定する様式に従って、申請書類を準備します。主な書類は、交付申請書、導入計画書、見積書の写し、システムのカタログや仕様書、SECURITY ACTION宣言完了メール、事業所の直近の職員名簿などです。
導入計画書には、現状の課題、ICT導入により期待される効果、具体的な活用方法、導入スケジュールなどを記載します。訪問介護の場合、移動時間の削減や記録業務の効率化、職員間の情報共有強化などを具体的に書くと説得力が増します。
よくある失敗は、導入計画が抽象的で具体性に欠けることです。例えば「業務を効率化する」ではなく、「訪問記録の作成時間を1件あたり15分から7分に短縮し、月間40時間の業務時間を削減する」と数値目標を明記すると審査に通りやすくなります。
ステップ5:導入後の効果報告を2年間実施する(難易度:中)
補助金の交付を受けた後も、2年間にわたり導入効果の報告が義務付けられています。報告内容は、実際に導入した機器とシステム、業務改善の具体的な成果、職員の労働時間の変化、収支状況の改善などです。
報告は年に1回、都道府県が指定する様式で提出します。また、ICT活用により収支が改善された場合は、その成果を職員の賃金に還元することが求められます。導入効果報告で確認されるため、賃金改善の記録も残しておきましょう。
さらに、LIFEへのデータ提供にも協力する必要があります。科学的介護の推進に向けて、介護データの蓄積に貢献することが補助金受給の条件となっています。タブレット端末のみを導入した場合も同様です。
ICT補助金活用の3つの注意点と対策
補助金申請では、知らずに失敗してしまうケースが少なくありません。事前に注意点を把握しておくことで、申請の成功率が高まります。
注意点1:補助対象外の経費を含めない
補助対象となる経費と対象外の経費を明確に区別する必要があります。対象外となるのは、通信費や保守料などの月額費用、キーボードやマウスなどの付属品、既存機器の廃棄費用、他の補助金との重複部分などです。
介護システムの保守料については、初年度の契約に含まれるものは補助対象になりますが、2年目以降の月額費用は対象外です。申請時の見積書では、対象となる経費と対象外の経費を分けて記載してもらいましょう。
失敗例として、タブレット端末と一緒にケースや保護フィルムを購入し、全額を申請してしまうケースがあります。これらの付属品は補助対象外なので、見積書から除外する必要があります。対策として、機器販売事業者に補助対象品目のみの見積書を依頼してください。
注意点2:事業所に常置するパソコンは対象外
訪問介護でよくある誤解が、事業所に設置する据え置き型パソコンやプリンターも補助対象になると思い込むことです。補助金は「持ち運びを前提とした端末」が対象であり、事務所内のみで使用する機器は原則として認められません。
対象となるのは、訪問先や移動中に使用するタブレット端末、スマートフォン、モバイルノートパソコン、インカムなどです。これらの機器には、介護業務専用であることを示すシールなどを貼付し、私用との区別を明確にする必要があります。
ただし、WiFi環境の整備に必要なルーターやアクセスポイント、配線工事は補助対象になります。訪問介護事業所では、職員が出勤時や訪問の合間に立ち寄った際にデータを同期するため、事業所内のネットワーク環境整備は重要です。
注意点3:申請期間と導入完了期限を守る
多くの都道府県では、年度内に機器の導入を完了し、実績報告を提出する必要があります。申請が遅れると、導入期間が短くなり、年度内に完了できないリスクが高まります。
申請期間は通常1カ月から2カ月程度で、募集開始から締切までが短いケースもあります。申請書類の準備には時間がかかるため、募集開始前から準備を始めることをお勧めします。見積書の取得やシステムの選定は、募集開始前に完了させておきましょう。
失敗例として、申請が通ってから機器を発注し、納品が年度末ギリギリになってしまうケースがあります。納品遅延が発生すると、補助金を受けられなくなる可能性があります。対策として、申請承認後は速やかに発注し、納期を余裕を持って設定してください。年度末の2月や3月は機器の納品が集中するため、特に注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 訪問介護事業所の職員数はどのように計算しますか?
訪問介護では、訪問介護員は常勤・非常勤の別を問わず実人数でカウントできます。管理者や生活相談員、事務員など、ICTを活用する全ての職員を含められます。常勤換算ではなく実人数で算出できるため、パートタイマーが多い事業所でも職員数を増やせ、補助上限額が上がる可能性があります。
Q2: 既に導入済みのシステムでも補助金は受けられますか?
申請時点で既に導入・購入が完了しているシステムや機器は、原則として補助対象外です。ただし、追加で機器を導入する場合や、既存システムを刷新する場合は対象になる可能性があります。また、過去にICT補助金を受けた事業所でも、5年以内であれば上限額の範囲内で追加導入が認められるケースがあります。詳細は都道府県の要綱を確認してください。
Q3: 補助金の入金はいつ頃になりますか?
一般的な流れでは、導入完了後に実績報告書を提出し、都道府県が額の確定を行った後、1カ月から2カ月程度で補助金が振り込まれます。そのため、機器代金は事業所が一旦全額支払う必要があります。静岡県など一部の自治体では、交付決定後に概算払いで先に補助金を受け取れる制度もありますが、多くは精算払いです。資金繰りを考慮して計画を立てましょう。
Q4: 訪問介護以外のサービスも運営している場合はどうなりますか?
同一法人で複数の介護サービスを運営している場合、事業所ごとに申請できます。訪問介護事業所とデイサービス、居宅介護支援事業所をそれぞれ別に申請することも可能です。ただし、補助対象となるシステムの要件は事業種別により異なるため、各事業所に適したシステムを選定する必要があります。法人単位でまとめて申請する都道府県もあるため、事前に確認してください。
Q5: ケアプランデータ連携システムとは何ですか?
居宅介護支援事業所と訪問介護などのサービス提供事業所の間で、ケアプランを電子的にやり取りするシステムです。従来は紙やFAXでやり取りしていたケアプランを、システム上で共有できます。訪問介護事業所がこのシステムに対応していると、補助率が4分の3に引き上げられる可能性があります。令和7年度は5事業所以上とデータ連携を実施する場合、補助基準額に5万円が加算される自治体もあります。
まとめ:ICT補助金で訪問介護の業務改善を実現しよう
訪問介護のICT補助金は、導入コストを最大75%削減できる有効な制度です。重要なポイントは3つあります。1つ目は所在地の都道府県で申請期間と要件を早めに確認すること、2つ目は補助対象となるシステムの要件を満たす製品を選ぶこと、3つ目は導入計画を具体的に作成し、2年間の効果報告まで見据えることです。
今すぐ始めるべきアクションは、都道府県のホームページで最新情報を確認することです。次にSECURITY ACTIONの自己宣言を完了させ、システム事業者から見積もりを取得しましょう。申請期間は限られているため、早めの準備が成功の鍵となります。
ICT導入により、訪問介護の現場は大きく変わります。記録業務の効率化は職員の負担軽減につながり、より質の高い介護サービスの提供が可能になります。補助金を活用して、あなたの事業所でもICT化の第一歩を踏み出してください。

