居宅介護支援事業所のICT化で業務負担を軽減
ケアプラン作成や訪問業務で時間に追われていませんか?
ICT居宅介護支援とは、タブレット端末や介護ソフトを活用して記録業務から請求業務まで一元管理し、業務時間を平均30%削減できる仕組みです。
本記事では、居宅介護支援事業所で10年以上のICT導入支援経験をもとに、具体的な導入手順から失敗しないポイントまで、ケアマネジャーの実務に即して詳しく解説します。
この記事を読めば、ICT化の全体像が理解でき、あなたの事業所でも効率的な業務運営への第一歩を踏み出せるでしょう。
ICT居宅介護支援の基礎知識
ICTとは何か
ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略称で、インターネットやデジタル機器を活用した情報共有の仕組みを指します。
居宅介護支援事業所においては、ケアプラン作成ソフト、タブレット端末、クラウドサービス、データ連携システムなど、業務全般を支援する技術の総称です。
従来の紙ベースの記録や手書きのケアプランから、デジタル化された情報管理へと移行することで、業務の効率化と質の向上を同時に実現できます。特に訪問業務が中心のケアマネジャーにとって、場所を選ばずに情報にアクセスできる点は大きなメリットです。
厚生労働省も介護現場のICT化を推進しており、2021年度の介護報酬改定では、ICT活用による担当件数の逓減制緩和が導入されました。これにより、ICT導入が事業所の経営安定にも直結する仕組みとなっています。
居宅介護支援事業所におけるICTの位置づけ
居宅介護支援事業所では、ケアプラン作成、モニタリング、サービス事業者との連携、利用者・家族との面談記録など、多岐にわたる業務が発生します。これらの業務は事務作業の比重が高く、ICT化による効率化の効果が特に大きい領域です。
2021年度の介護報酬改定により、1人のケアマネジャーが担当できる件数は原則40件ですが、ICTを活用し情報共有が適切に行われている場合、45件まで担当可能となりました。さらに事務職員を配置している場合は、49件まで拡大されます。
つまり、ICT導入は単なる業務効率化だけでなく、事業所の収益向上にも直結する重要な経営戦略となっているのです。実際に、ICTを導入した事業所では、ケアプラン作成時間が平均30〜40%削減されたという調査結果も報告されています。
主なICTツールと機能
居宅介護支援で活用される主なICTツールは5つに分類されます。第一に、ケアプラン作成ソフトで、利用者情報の管理から第1表から第7表までの作成、モニタリング記録まで一元管理できます。
第二に、タブレット端末です。訪問先でその場で記録入力でき、利用者に画像や動画を見せながら説明することも可能になります。従来の紙ファイルを持ち運ぶ必要がなくなり、移動の負担も軽減されます。
第三に、ケアプランデータ連携システムです。居宅介護支援事業所とサービス提供事業所間で、ケアプランや利用票などのデータを電子的にやり取りできます。FAXや郵送の手間が大幅に削減されます。
第四に、クラウドサービスで、インターネット経由でどこからでも情報にアクセスできます。第五に、オンライン会議ツールで、サービス担当者会議やモニタリング面談をオンラインで実施できます。
ICT導入による具体的なメリット
業務時間の大幅削減
ICT導入の最大のメリットは、業務時間の削減です。手書きでケアプランを作成する場合、1件あたり平均2〜3時間かかりますが、ケアプラン作成ソフトを使うと1〜1.5時間に短縮できます。テンプレート機能や過去のプラン参照機能により、作成効率が劇的に向上するためです。
モニタリング記録も、訪問先でタブレットに直接入力すれば、事務所に戻って清書する時間が不要になります。ある事業所では、モニタリング記録の作成時間が1件あたり30分から10分に短縮されたという事例もあります。
サービス事業者とのやり取りもICT化により効率化されます。ケアプランデータ連携システムを使えば、FAXや郵送が不要になり、送信から確認までの時間が数日から数時間に短縮されます。1人のケアマネジャーが月に100枚以上の書類をやり取りすることを考えると、その削減効果は計り知れません。
情報共有とコミュニケーションの円滑化
クラウド型の介護ソフトを導入すると、複数のケアマネジャーが同時に同じ情報にアクセスできます。担当者が不在でも他のケアマネジャーが利用者情報を確認でき、緊急時の対応がスムーズになります。「言った、言わない」のトラブルも、記録が残ることで防げます。
オンライン会議ツールの活用により、サービス担当者会議の開催も容易になります。医師やリハビリ職など多職種が集まる会議の日程調整は困難でしたが、オンライン開催なら場所の制約がなくなり、開催しやすくなります。実際に、オンライン会議の活用で担当者会議の開催率が20%向上した事業所もあります。
利用者・家族とのコミュニケーションも向上します。タブレットで写真や動画を見せながら説明できるため、言葉だけでは伝わりにくいサービス内容も理解してもらいやすくなります。特に認知症の方への説明では、視覚的な情報提示が効果的です。
ペーパーレス化とコスト削減
紙ベースの記録管理には、印刷コスト、保管スペース、書類検索の手間など、多くの隠れたコストがかかります。ICT化によりペーパーレスを実現すれば、これらのコストを大幅に削減できます。
ある事業所では、ICT導入により年間の印刷コストが約40万円削減されました。トナー代、用紙代だけでなく、プリンターのメンテナンス費用も減少したためです。さらに、書類保管用のキャビネットが不要になり、事務所スペースを有効活用できるようになりました。
書類検索の時間も大幅に短縮されます。紙の書類では、過去の記録を探すのに10分以上かかることもありますが、電子化されたデータならキーワード検索で数秒で見つかります。運営指導の際の資料準備も格段に楽になります。
ICT導入の実践ステップ
ステップ1: 現状分析と目標設定(所要時間1〜2週間)
まず現在の業務フローを洗い出し、どの業務に時間がかかっているかを分析します。ケアプラン作成、モニタリング、サービス事業者との連絡、請求業務など、各業務の所要時間を記録しましょう。1週間程度、タイムスタディを行うと実態が把握できます。
次にICT導入の目標を設定します。「ケアプラン作成時間を30%削減」「担当件数を40件から45件に増やす」「残業時間を月20時間削減」など、数値目標を明確にすることが重要です。目標が明確だと、導入後の効果測定もしやすくなります。
事業所内でICT導入の必要性を共有することも大切です。特にベテランのケアマネジャーの中には、デジタル機器に抵抗がある方もいます。導入のメリットを丁寧に説明し、全員の理解を得ることが成功の鍵となります。
ステップ2: ツール選定と見積もり取得(所要時間2〜3週間)
介護ソフトの選定は慎重に行いましょう。厚生労働省の介護ソフト機能調査で、ケアプランデータ連携標準仕様に対応しているソフトを確認できます。複数のソフトのデモ版を試用し、操作性や機能を比較することをおすすめします。
選定時のポイントは、第一に使いやすさです。複雑な操作が必要なソフトは定着しにくくなります。第二にサポート体制で、導入後の問い合わせに迅速に対応してくれるか確認しましょう。第三に拡張性で、将来的に他のサービス種別を開始する可能性がある場合、対応できるソフトを選ぶと良いでしょう。
タブレット端末の選定も重要です。画面サイズは10インチ程度が扱いやすく、利用者に見せる際にも適しています。バッテリー駆動時間が8時間以上あると、1日の訪問業務に対応できます。セキュリティ面では、指紋認証や顔認証機能があると安心です。
ステップ3: 補助金申請と導入準備(所要時間1〜2ヶ月)
ICT導入支援補助金の活用を検討しましょう。都道府県が実施する補助金を利用すれば、導入費用の2分の1から4分の3が補助されます。申請には導入計画書の作成が必要ですが、業務改善の具体的な目標を記載することで採択されやすくなります。
補助金申請と並行して、導入準備を進めます。インターネット環境の整備が必要な場合は、Wi-Fiルーターの設置を検討します。クラウドサービスを利用する場合、安定した通信環境が不可欠です。通信速度は最低でも下り10Mbps以上を確保しましょう。
既存データの移行計画も立てます。過去の利用者情報やケアプランをどこまで移行するか決定します。全てを移行するのは時間がかかるため、直近1年分のデータのみ移行するなど、優先順位をつけることが現実的です。
ステップ4: 導入と職員研修(所要時間1〜2ヶ月)
交付決定後、機器の発注と介護ソフトの契約を行います。納品されたら、まず管理者やICTに詳しい職員が先行して使い始め、操作に慣れることが重要です。その後、他の職員へ段階的に展開していくと、スムーズに定着します。
職員研修は複数回に分けて実施します。1回目は基本操作、2回目はケアプラン作成、3回目はデータ連携など、段階的に学ぶと理解が深まります。ベンダーによる導入研修だけでなく、事業所内での勉強会も定期的に開催しましょう。
操作マニュアルも整備します。ベンダーのマニュアルだけでなく、事業所独自の簡易マニュアルを作成すると、職員が迷ったときにすぐ確認できます。よくある質問と回答をまとめたFAQ集も有効です。
ステップ5: 運用開始と効果測定(所要時間継続的)
いきなり全ての業務をICT化するのではなく、まず新規利用者のケアプランから電子化を始めるなど、段階的に移行することをおすすめします。既存利用者については、更新のタイミングで電子化していくと、職員の負担が分散されます。
運用開始後は定期的に効果測定を行います。業務時間の変化、担当件数の推移、職員の満足度などを記録し、目標達成度を確認しましょう。3ヶ月後、6ヶ月後、1年後と定期的に振り返ることで、改善点も見えてきます。
つまずきやすいポイントを共有することも大切です。月に1回程度、ICT活用に関する情報共有の場を設け、便利な使い方や困ったことを共有すると、事業所全体のスキルアップにつながります。
ICT活用の成功ポイントと注意事項
よくある失敗例と対策
最も多い失敗は「導入したが使われない」ケースです。操作が複雑すぎる、従来の方法の方が慣れている、という理由で紙に戻ってしまう事業所があります。対策として、操作が簡単なソフトを選ぶこと、使い方のサポート体制を整えることが重要です。また、「1ヶ月は必ず使ってみる」など、試用期間を設けることも有効です。
「セキュリティ対策が不十分」という失敗も深刻です。タブレットを紛失したり、パスワードを共有したりすると、個人情報漏洩のリスクがあります。対策として、デバイスには必ずパスワードをかける、紛失時の遠隔ロック機能を設定する、定期的なパスワード変更を義務付けるなど、明確なルールを定めましょう。
「補助金の実績報告を忘れる」失敗もあります。補助金を受給した場合、導入後の効果報告が義務付けられています。報告期限を忘れると、次年度の申請に影響が出る可能性もあります。対策として、報告期限をカレンダーに登録し、余裕を持って準備を始めることが大切です。
居宅介護支援事業所特有の留意点
訪問業務が中心のため、タブレットの持ち運びに関するルールが重要です。車内に放置しない、カバンから出さない場所では電源を切る、公共交通機関では画面を見られないよう注意するなど、具体的なルールを定めましょう。業務用であることを示すシールを貼ることも有効です。
ケアプランデータ連携システムの活用には、サービス事業者側の協力も不可欠です。連携先の事業所がシステムに対応していない場合、メリットが半減します。事前に主要な連携先事業所に説明し、システム導入を働きかけることも検討しましょう。地域全体でICT化が進むと、より大きな効果が得られます。
1人ケアマネの事業所では、導入時のサポートが得にくいという課題があります。ベンダーのサポートを積極的に活用する、近隣の事業所と情報交換する、自治体の相談窓口を利用するなど、外部のリソースを活用することが成功の鍵です。
効果を最大化する活用テクニック
テンプレート機能を活用すると、ケアプラン作成が格段に速くなります。よく使う文言やサービス内容をテンプレート登録しておき、利用者に合わせてカスタマイズする方法が効率的です。ただし、テンプレートをそのまま使うのではなく、個別性を反映することが質の高いケアプランには不可欠です。
データ分析機能も活用しましょう。利用者の要介護度分布、サービス利用状況、給付管理の傾向などを分析することで、事業所の強みや課題が見えてきます。この情報を基に、営業戦略や職員配置を最適化できます。
スケジュール管理機能とカレンダーアプリを連携させると、訪問予定が一目で分かります。モニタリング予定、担当者会議、サービス開始日などを自動でリマインドする設定にすれば、うっかり忘れを防げます。
よくある質問(FAQ)
Q1: ICT導入にどのくらいの費用がかかりますか?
小規模な居宅介護支援事業所の場合、介護ソフトの導入費用は初期費用10〜30万円、月額利用料5,000〜15,000円が一般的です。タブレット端末は1台3〜8万円程度です。補助金を活用すれば、自己負担は総額の2分の1から4分の1に抑えられるため、実質10〜20万円程度で導入できます。クラウド型サービスなら初期費用が安く、月額課金制で始めやすくなっています。
Q2: デジタル機器が苦手な職員でも使いこなせますか?
現在の介護ソフトは、直感的に操作できるよう設計されています。スマートフォンが使える方なら、基本操作は数日で習得できます。段階的な研修と、事業所内でのサポート体制を整えることで、デジタル機器が苦手な職員でも徐々に慣れていきます。実際、60代のケアマネジャーがICTを使いこなしている事例も多数あります。不安がある場合は、操作が簡単なソフトを選ぶことが重要です。
Q3: ケアプランデータ連携システムは必須ですか?
必須ではありませんが、導入すると業務効率が大幅に向上します。FAXや郵送が不要になり、サービス事業者とのやり取りが即座に完了します。特に担当件数が多い事業所では効果が大きくなります。また、補助金の補助率拡充要件にもなっているため、補助額を増やせるメリットもあります。連携先事業所が対応している場合は、積極的に活用することをおすすめします。
Q4: オンライン面談は対面と同じ効果がありますか?
オンライン面談は対面の代替手段として有効ですが、初回面談や重要な意思決定時には対面が望ましい場合もあります。2021年度の介護報酬改定で、モニタリングの一部をオンラインで実施することが認められましたが、3ヶ月に1回は対面で行う必要があります。オンラインと対面を組み合わせることで、効率性と質の両立が可能です。利用者・家族の希望も尊重しながら、柔軟に活用しましょう。
Q5: ICT導入後に紙の記録は完全になくせますか?
完全なペーパーレスは理想ですが、現実的には一部の書類は紙で保管する場合もあります。利用者・家族が紙での説明を希望する場合や、署名が必要な書類などは紙で対応することがあります。ただし、紙で作成した書類もスキャンしてデータ化しておけば、検索や共有が容易になります。段階的にペーパーレス化を進め、最終的には9割以上の電子化を目指すのが現実的な目標です。
まとめ
ICT居宅介護支援は、ケアマネジャーの業務効率化と質の向上を同時に実現する強力なツールです。重要なポイントは、現状分析と明確な目標設定、使いやすいツールの選定とサポート体制の確保、段階的な導入と継続的な効果測定の3点です。
まずは都道府県のICT導入支援補助金の募集情報を確認し、自事業所に合ったソフトのデモ版を試してみましょう。補助金を活用すれば、費用負担を抑えながら業務改善を実現できます。
ICT化は一朝一夕では成功しませんが、着実に取り組むことで、ケアマネジャーがより質の高いケアマネジメントに集中できる環境が整います。あなたの事業所でも、この機会にICT化の第一歩を踏み出してみませんか。

