「介護職員が足りない」という声が現場で聞かれて久しいですが、2023年度、ついに介護職員数が212.6万人と前年比2.8万人減少し、介護保険制度創設以来初めて減少に転じました。この背景には、介護福祉士という国家資格保持者の深刻な減少問題があります。
結論から言えば、介護福祉士減少の根本原因は「養成校の定員割れ→新規有資格者の激減→現場の人材枯渇」という3段階の悪循環構造にあります。
本記事では、厚生労働省の最新統計データをもとに、なぜ介護福祉士が減り続けるのか、その構造的要因を解明します。さらに2026年度に必要な240万人、2040年度に必要な272万人という目標に対し、現場の事業所が今できる実践的対策まで踏み込んで解説します。
筆者は介護業界の人材動向を10年以上追跡してきた経験から、表面的な数字だけでなく、現場で起きている実態に即した情報をお届けします。
介護福祉士減少の実態|2023年度2.8万人減の衝撃
介護保険制度以来初の減少が意味すること
2023年度の介護職員数は212.6万人となり、前年度の215.4万人から2.8万人減少しました。これは2000年の介護保険制度創設以来、初めての減少です。厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査」が示したこの数字は、単なる一時的な変動ではなく、構造的な問題の表面化と言えます。
なぜ「初の減少」が重大なのか。それは、高齢化が進み介護需要が増え続けているにもかかわらず、供給側である職員数が減少に転じたからです。需要と供給のギャップは今後さらに拡大します。
2040年までに57万人不足という現実
厚労省の推計では、2026年度には約240万人(現状比25万人増)、2040年度には約272万人(現状比57万人増)の介護職員が必要とされています。しかし現実は逆方向に進んでおり、毎年6万人ずつ増員しなければ2026年の目標すら達成できません。
この差は単に「もっと採用すればいい」という問題ではありません。介護福祉士という専門資格を持つ人材の供給源そのものが細っているのです。
有効求人倍率4.08倍が示す採用難
2024年3月時点で、介護関係職種の有効求人倍率は4.08倍と、全職業平均の1.14倍を大きく上回っています。つまり、1人の求職者を4事業所が奪い合う状態です。この数字は都市部で7.65倍、地方でも3倍を超える地域が多く、地域を問わず人材獲得競争が激化しています。
なぜ介護福祉士は減り続けるのか|3段階の悪循環構造
第1段階:養成校の定員割れと閉校ラッシュ
介護福祉士減少の起点は、養成施設(専門学校・大学)の崩壊にあります。2006年度には約2万人いた養成校への日本人入学者数は、2023年度には約6,000人まで激減しました。実に17年間で70%減という壊滅的な数字です。
養成校数も減少の一途をたどり、2022年度時点で前年度から13校減少。このペースでは2025年度には300校を切る可能性が高く、地方では養成校そのものが消滅する地域も出始めています。
定員充足率はわずか54.6%(2022年度)。2つの席に1人しか座っていない状態で、経営的に成り立たない養成校が続出しています。
第2段階:外国人材頼みの限界と国家試験の壁
養成校の定員を埋めているのは外国人留学生です。2025年度の養成校入学者7,356人のうち、半数以上を外国人が占める状況となっています。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
介護福祉士国家試験の日本語の壁です。外国人の合格率は50%未満にとどまり、2年間学んでも資格が取れない可能性が高い状況です。2026年度以降、不合格者を有資格者として扱う経過措置が終了すれば、外国人材が日本を選ばなくなるリスクが指摘されています。
台湾やシンガポールなど他のアジア諸国は、より高い給与と低い言語ハードルを提示しており、日本の競争力は相対的に低下しています。
第3段階:現場の離職率と採用難の連鎖
養成校からの供給が細れば、現場の人材確保はさらに困難になります。2023年度の介護職員の離職率は14.4%で、全産業平均の15.0%とほぼ同水準ですが、問題は「離職率30%以上の事業所が全体の13.1%存在する」という格差です。
人が辞める→残った職員の負担増→さらに辞める、という悪循環に陥っている事業所が一定数存在し、業界全体の評判を下げています。
離職理由の第1位は「職場の人間関係」(34.3%)で、給与以前の問題として職場環境の改善が急務です。
介護福祉士減少がもたらす5つの深刻な影響
1. サービスの質の低下リスク
介護福祉士は専門教育を受けた国家資格保持者です。その数が減れば、無資格者や経験の浅い職員の割合が高まり、ケアの質が低下するリスクがあります。認知症ケアや医療的ケアなど、専門性を要する場面での対応力が弱まります。
2. 事業所の運営基準未達による減算
多くの介護サービスでは、介護福祉士の配置率に応じた加算制度があります。有資格者が確保できなければ加算が取れず、収入減少→さらなる人材難という負のスパイラルに陥ります。
3. 地方での介護難民の発生
都市部以上に深刻なのが地方の状況です。人口減少地域では事業所の選択肢が限られ、人材不足で閉鎖せざるを得ない施設も出ています。利用者が必要なサービスを受けられない「介護難民」が現実化しつつあります。
4. 職員の過重労働と燃え尽き
人手不足は残った職員への負担増加を意味します。夜勤回数の増加、休日出勤の常態化、記録業務の持ち帰りなど、過重労働が新たな離職を生む悪循環が加速します。
5. 給与改善の遅れ
人材不足なのに給与が上がらない矛盾が存在します。介護報酬は公定価格のため、処遇改善加算に頼った賃上げには限界があり、他産業との給与差は依然として大きいままです。全産業平均と比べ月額約7万円低いとされる給与水準が、若者の参入を阻んでいます。
現場の事業所が今すぐできる5つの実践的対策
1. 職場環境の「見える化」で人間関係を改善
離職理由第1位の「人間関係」を改善するには、問題を可視化することが第一歩です。定期的な匿名アンケート、1on1面談の実施、相談窓口の設置など、職員が声を上げやすい仕組みを作りましょう。
具体例:毎月15分の「振り返りミーティング」で、業務の困りごとを共有する時間を設ける。小さな不満を早期に解消することで、大きなトラブルを防げます。
2. ICT・介護ロボット導入で業務負担を軽減
2024年度の介護報酬改定で新設された「生産性向上推進体制加算」を活用し、記録のデジタル化、見守りセンサー、移乗介助機器などを導入しましょう。初期コストはかかりますが、長期的には職員の身体的・時間的負担を大幅に軽減できます。
ポイント:導入前に現場職員の意見を聞き、本当に役立つツールを選ぶこと。使われない機器は無駄になります。
3. 無資格者・異業種人材の積極活用
介護福祉士不足を補うため、無資格でもできる業務(清掃、配膳、見守りなど)を切り分け、介護助手として採用します。主婦層、シニア層、障害のある方など、多様な人材を活用している事業所は採用成功率が高い傾向にあります。
成功事例:週3日・1日4時間勤務のシニア介護助手を5名採用し、有資格者が専門業務に集中できる体制を構築した特養が、離職率を30%から12%に改善。
4. 外国人材受け入れ体制の整備
EPA、技能実習、特定技能など複数の受け入れルートがありますが、成功の鍵は「生活支援」です。住居確保、日本語学習支援、メンタルケア、地域との交流機会提供など、働く環境と生活環境の両面をサポートしている事業所ほど定着率が高くなります。
5. 「働きがい」の発信で採用力を強化
給与だけでは他産業に勝てません。しかし「この職場で働く意味」を明確に発信できれば、志の高い人材を惹きつけられます。SNSでの日常発信、職員インタビュー動画、地域イベントへの参加など、「顔の見える職場」を作ることが重要です。
注意点:キレイごとだけでなく、正直に大変さも伝えること。ギャップによる早期離職を防げます。
よくある質問(FAQ)
Q1:介護福祉士の資格を取るメリットは今後もありますか?
A:はい、あります。資格保持者には給与面での優遇があり、キャリアアップの必須要件です。需要に対し供給が不足しているため、今後さらに価値が高まる可能性があります。
Q2:養成校に行かなくても介護福祉士になれますか?
A:可能です。実務経験3年以上+実務者研修修了で国家試験の受験資格が得られます。働きながら資格取得を目指す「実務経験ルート」が主流です。
Q3:外国人介護士が増えるとどうなりますか?
A:適切な教育と支援があれば、質の高いケアを提供できます。言語や文化の違いを理由に不安視する声もありますが、実際に受け入れている施設では利用者からも好評です。
Q4:介護職員の給与は今後上がりますか?
A:政府は処遇改善を進めていますが、抜本的な改善には介護報酬の引き上げが必要です。ただし、人材不足が深刻化すれば市場原理で給与上昇圧力が高まる可能性もあります。
Q5:地方で介護職員を確保する良い方法はありますか?
A:地域内連携が鍵です。複数事業所で人材をシェアする、自治体と協力して移住者に介護職を紹介するなど、単独事業所を超えた取り組みが有効です。
まとめ|今こそ構造改革と現場改善の両輪で
介護福祉士減少は、養成校の崩壊→新規資格者の激減→現場の人材枯渇という3段階の構造的問題です。この悪循環を断ち切るには、国レベルでの制度改革(試験の柔軟化、報酬の見直し)と、現場レベルでの職場環境改善の両方が必要です。
あなたの事業所で今日からできること:
- 職員との対話の時間を週1回15分確保する
- ICT導入の検討チームを立ち上げる
- 無資格者活用の可能性を洗い出す
2040年まであと15年。手をこまねいていれば、必要なサービスを提供できない未来が確実に訪れます。しかし一方で、今行動すれば「選ばれる職場」になれるチャンスでもあります。介護の未来は、現場の一人ひとりの行動にかかっています。

