「なぜ介護施設は常に人手不足なのか?」
介護職員不足の主な原因は、少子高齢化による需要拡大、給与水準の低さ、人間関係のストレス、身体的負担、評価制度の未整備という5つの要因が複雑に絡み合っていることです。これらは単独ではなく、互いに影響し合う「悪循環」を生んでいます。
本記事では、厚生労働省の最新データをもとに介護職員不足の構造的原因を分析し、即効性のある対策から2040年問題を見据えた長期施策まで、優先順位別に実践的な解決策を解説します。施設運営者や人事担当者が明日から取り組める具体的なアクションプランを提示します。
2025年には約32万人、2040年には約69万人の介護職員が不足すると予測される今、効果的な対策を講じることが施設存続の鍵となります。
介護職員不足の現状│2025年問題と2040年問題
深刻化する人材不足の実態
厚生労働省の「第8期介護保険事業計画」によると、2023年度には約233万人、2025年度には約243万人、2040年度には約280万人の介護職員が必要と推計されています。2019年度の介護職員数約211万人を基準とすると、2025年には約32万人、2040年には約69万人が不足する計算です。
介護関係職種の有効求人倍率は全国平均で3.97倍。全職業平均の1.16倍と比較すると、介護業界は他業種の3倍以上人手が不足しています。特に大都市圏では7.65倍、中部主要都市では6.49倍と都市部で深刻化しています。
2025年問題とその影響
2025年には団塊の世代約800万人が75歳以上の後期高齢者となり、国民の約30%が高齢者となる「2025年問題」が目前に迫っています。要介護認定者数は2000年の約256万人から2023年には約708万人と2.8倍に増加しており、介護需要は今後も拡大を続けます。
2040年問題という新たな課題
2040年には団塊ジュニア世代が高齢者となり、現役世代が著しく減少する「2040年問題」が待ち受けています。高齢者人口の増加は2040年以降落ち着きますが、支え手となる労働人口の減少により、介護職員1人あたりの負担はさらに増大する見込みです。
介護職員不足の5つの原因│構造的悪循環を理解する
介護職員不足は単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合う「構造的悪循環」によって引き起こされています。
原因1│少子高齢化による需給バランスの崩壊
根本原因は、介護を必要とする高齢者の急増と、介護を担う若年層の減少という需給バランスの崩壊です。65歳以上人口と15〜64歳人口の比率は、1950年には1対12.1だったのが、2022年には1対2まで縮小しています。
他業種も労働人口減少の影響を受けていますが、介護業界は需要側(高齢者)の増加という二重の圧力にさらされているため、人手不足がより深刻化しています。
原因2│仕事内容に見合わない給与水準
令和4年度の介護職員の平均月収は約31.7万円(年収約380万円)で、全産業平均の443万円より約60万円低い水準です。夜勤や身体介助など体力的負担の大きい仕事内容に対して、給与が見合っていないと感じる人が多く、他業種への転職を選択する要因となっています。
令和6年の賃金構造基本統計調査では、医療・福祉産業の平均賃金は30.64万円で、産業全体と比較しても低い結果が示されています。
原因3│人間関係のストレスによる離職
調査機関の調査では、介護職を辞めた理由の第1位が「職場の人間関係に問題」(23.2%)で、「収入が少ない」(16.4%)を上回っています。
介護現場では、職員同士だけでなく利用者・家族・医療関係者など多様な人々と関わる必要があり、コミュニケーションの負担が大きくなります。特に評価制度が未整備な職場では、「仕事ができる人」と「できない人」の差が可視化されず、不公平感から人間関係が悪化しやすい傾向があります。
原因4│身体的・精神的負担の大きさ
仕事に関する悩みとして「身体的負担が大きい」と答えた介護従事者は24.6%に上ります。入浴介助・排泄介助・移乗介助など体力を使う業務が多く、人手不足で本来2人で行うべき介助を1人で担当するケースも発生しています。
24時間体制の施設では夜勤シフトがあり、生活リズムの乱れによる精神的負担も大きくなります。夜勤時は少人数で多くの利用者をケアする必要があり、1人あたりの負担がさらに増大します。
原因5│評価制度の未整備と年功序列
中小規模の介護施設では人事評価制度が整備されていないケースが多く、能力や仕事内容が正しく評価されず、昇給・昇格が勤続年数に依存する年功序列になりがちです。
若手の頑張りが給与や賞与に反映されないと、モチベーションが低下し離職につながります。評価基準の曖昧さは、原因3の人間関係悪化とも連動し、「あの人は仕事をしていないのに同じ給与」といった不満を生み出します。
悪循環のメカニズム
これら5つの原因は以下のように連鎖します:
少子高齢化で人手不足 → 1人あたりの負担増加 → 身体的・精神的ストレス増大 → 人間関係悪化 → 離職者増加 → さらなる人手不足 → 採用難と給与抑制 → 新規参入者減少
この悪循環を断ち切るには、複数の対策を同時に進める必要があります。
介護職員不足を解決する実践的対策│優先順位別3段階アプローチ
効果的な人材確保には、即効性のある対策、中期的な改善施策、長期的な構造改革を組み合わせることが重要です。
【即効対策】明日から始められる施策
1│相談窓口の設置で離職を防ぐ
相談窓口がある事業所で働く職員の42.1%が「人間関係の悩みがない」と回答したのに対し、窓口がない事業所では22.9%に留まります(19.2%の差)。メールや匿名の投書箱など気軽に相談できる仕組みを整備するだけで、離職率を下げられます。
外部の専門カウンセラーと契約し、職場内の人間関係に縛られない相談体制を作ることも効果的です。
2│ITツール導入で業務効率化
介護記録のデジタル化、シフト管理アプリ、タブレット端末の導入により、書類作成時間を1日あたり30分〜1時間削減できた事例があります。削減した時間を利用者ケアに充てることで、サービス品質が向上し、職員の「やりがい」も高まります。
厚生労働省のICT導入支援事業では、介護ソフトや情報端末の導入に補助金が支給されており、初期コストを抑えられます。
3│ユニットケアの導入
10名程度を1ユニットとして顔なじみの職員が担当するユニットケアは、従来の集団ケアで起こりがちな人間関係トラブルを減らし、職員のストレスを軽減します。利用者一人ひとりのペースに合わせたケアができるため、職員の達成感も得やすくなります。
【中期施策】3〜6ヶ月で効果を出す取り組み
4│処遇改善加算の上位取得
2024年6月に介護職員等処遇改善加算が一本化され、上位加算の取得で月額6,000円相当のベースアップが可能になりました。加算取得には昇給制度・研修機会の確保など労働環境整備が必要ですが、給与改善と職場環境改善を同時に実現できます。
加算取得のための就業規則改定や研修計画策定は3〜6ヶ月で実施可能です。
5│資格取得支援制度の導入
介護福祉士資格の取得費用(テキスト代・スクール代)を施設が負担し、資格手当を支給する制度を設けることで、職員のスキルアップとモチベーション向上を同時に実現できます。
実務経験3年+実務者研修修了で受験資格が得られるため、働きながらの資格取得をサポートする体制を整えましょう。資格取得後は配置基準上も有利になり、施設運営の安定化にもつながります。
6│評価制度の構築
明確な評価基準を設け、能力・スキル・勤務態度を可視化することで、若手職員の頑張りを正当に評価し、年功序列からの脱却を図ります。四半期ごとの面談で目標設定と振り返りを行い、昇給・昇格の基準を透明化しましょう。
サーベイツールを活用して組織課題や人間関係を定期的に把握し、問題を早期発見することも効果的です。
【長期施策】1年以上かけて取り組む構造改革
7│外国人介護人材の受け入れ
特定技能1号は通算5年間就労でき、訪問介護を含む身体介護と支援業務が可能です(2025年4月より訪問介護解禁)。技能実習生からの移行が多く、日本での在住経験がある人材を採用できます。
外国人雇用には日本語教育支援・住居確保・生活サポートが必要ですが、国や自治体の補助金を活用することで、若年層の労働力を安定的に確保できます。
8│多様な働き方の導入
「介護現場における多様な働き方導入モデル事業」を活用し、短時間勤務・季節限定勤務・兼業など柔軟な働き方を導入することで、子育て中や副業希望者など、これまで介護業界に参入できなかった層を取り込めます。
日勤のみ・週3日勤務など、ライフスタイルに合わせた勤務形態を用意することで、潜在介護士の復職も促進できます。
9│積極的な情報発信と採用活動
公式Webサイトの充実、SNSでの職場の魅力発信、オンライン面接体制の整備など、「待ち」の採用から「攻め」の採用への転換が必要です。介護職に特化した転職エージェントとの連携を強化し、求人露出を最大化しましょう。
実際に働く職員のインタビュー動画や1日の業務の様子を発信することで、「介護の仕事はきつい」というネガティブイメージを払拭し、やりがいや成長機会をアピールできます。
よくある質問(FAQ)
Q1: 介護職員不足はいつまで続くのですか?
A: 厚生労働省の推計では、2025年がピークで、以降は徐々に緩和される見込みです。ただし2040年には現役世代の減少により再び深刻化する可能性があります。
Q2: 小規模施設でもできる人手不足対策はありますか?
A: 相談窓口の設置、ITツールの部分導入、柔軟な勤務形態の提供など、コストを抑えた対策から始められます。処遇改善加算の取得も施設規模に関わらず可能です。
Q3: 外国人介護人材の採用は難しくないですか?
A: 特定技能1号は技能実習生からの移行が多く、日本語能力や介護スキルをある程度備えた人材を採用できます。監理団体や登録支援機関のサポートを活用すれば、手続きの負担も軽減されます。
Q4: 給与を上げずに人材を確保する方法はありますか?
A: 働きやすい環境整備、評価制度の透明化、資格取得支援、柔軟な働き方の提供など、金銭面以外の魅力を高めることで人材を引きつけられます。ただし長期的には処遇改善が不可欠です。
Q5: 離職率を下げるために最も効果的な施策は何ですか?
A: 調査データから「人間関係の改善」が最重要です。相談窓口設置、定期面談、評価制度の整備により、職場の人間関係を良好に保つことが離職防止の鍵となります。
まとめ│今すぐ行動を始めよう
介護職員不足の原因は、少子高齢化・低賃金・人間関係ストレス・身体的負担・評価制度未整備という5つの要因が絡み合う構造的問題です。2025年問題が目前に迫り、2040年問題も見据えた対策が求められています。
今日から始められる3つのアクション:
- 職員が相談しやすい窓口を設置する
- ITツール導入の検討と補助金申請を開始する
- 処遇改善加算の上位取得に向けた準備を始める
人手不足は一朝一夕には解決しませんが、即効対策・中期施策・長期施策を組み合わせることで、着実に改善できます。職員が「この職場で働き続けたい」と思える環境を整えることが、持続可能な介護サービス提供の基盤となります。
明日からできる小さな一歩を、今日始めましょう

