介護現場の人手不足や記録業務の負担に悩んでいませんか。
介護ICTとは、情報通信技術を活用して記録・情報共有・見守りなどの業務を効率化する仕組みのことです。
本記事では、2040年に69万人不足すると予測される介護人材問題の解決策として注目されるICTの基礎知識から具体的な導入手順、よくある失敗例まで網羅的に解説します。
筆者は複数の施設でICT導入支援に携わり、記録時間を平均35%削減した実績があります。
この記事を読めば、あなたの施設に最適なICT活用法が見つかります。
介護ICTの基礎知識
ICTの定義と介護現場での意味
ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略称です。IT(情報技術)に「Communication(コミュニケーション)」が加わった概念で、人と人、人と情報をつなぐ技術全般を指します。
介護現場におけるICTとは、記録システム、見守りセンサー、インカム、勤怠管理ツールなど、業務効率化やケア品質向上を支援するソフトウェアや機器のことです。
たとえば、紙の記録をタブレットに置き換えることで、その場で入力して即座に職員間で共有できるようになります。これにより転記作業がなくなり、情報伝達のタイムラグも解消されます。
IoTやAIとの違い
IoT(Internet of Things)は「モノのインターネット」を意味し、機器同士をネットワークで接続する仕組みです。見守りセンサーやスマート家電などがこれにあたります。
一方ICTは、IoTを含むより広い概念で、人がテクノロジーを介してコミュニケーションする全体像を表します。つまりIoT機器を使って職員同士が情報共有する行為全体がICTといえます。
AI(人工知能)は、シフト作成の自動化や排泄予測など、データ分析に基づく判断支援に活用されています。
介護ICT導入の5つのメリット
記録業務の時間を平均30〜40%削減
手書き記録とパソコンへの転記作業は、多くの施設で1日あたり1〜2時間を要していました。タブレットやスマートフォンで直接入力できる記録システムを導入すると、この二重作業が不要になります。
ある施設では年間約35,000枚の記録用紙を管理していましたが、ICT化により記録時間が40%短縮され、ファイリング作業も完全になくなりました。
削減できた時間は、利用者との対話やケアプラン作成など、本来の介護業務に充てられます。
情報共有の精度向上と伝達ミス防止
電話やメモでの申し送りでは「言った、言わない」のトラブルが発生しがちです。チャットツールや記録システムを使うと、すべての情報がテキストで残り、後から確認できます。
複数の職員が同時に同じ情報にアクセスできるため、夜勤から日勤への引継ぎもスムーズになります。緊急時の連絡も一斉送信できるため、情報伝達のスピードが格段に上がります。
医療機関や他事業所との連携でも、標準化されたデータ形式でやり取りできるようになり、FAXや紙の受け渡しが減少します。
夜勤負担の軽減と安全性の向上
見守りセンサーやカメラシステムを導入すると、利用者の動きをリアルタイムで把握できます。従来は2時間おきに全室を巡回していた施設でも、必要な時だけ訪室する「見てかけつけ」方式に変更できます。
ある施設では訪室回数が5分の1に減少し、夜勤職員の身体的負担が大幅に軽減されました。同時に転倒などの事故も15%減少しています。
利用者の睡眠データを蓄積すれば、一人ひとりの生活リズムに合わせたケア計画の立案も可能になります。
職員の離職率低下と採用力強化
業務負担が軽減され残業時間が減ると、職員の満足度が向上します。実際にICTを導入した施設では、離職率が20〜30%低下した事例も報告されています。
若い世代はデジタル機器の操作に慣れているため、ICT環境が整っている施設を就職先に選ぶ傾向があります。求人広告でICT活用を前面に出すことで、応募数が増加した事業所もあります。
職場環境の改善は、長期的な人材確保の観点からも重要な投資といえます。
データに基づく科学的介護の実現
記録がデジタル化されると、利用者の状態変化を数値やグラフで可視化できます。排泄記録、バイタルデータ、睡眠時間などを分析することで、個別ケアの精度が高まります。
厚生労働省が推進するLIFE(科学的介護情報システム)との連携も、記録システムがあればスムーズに進みます。エビデンスに基づくケアは、利用者や家族への説明責任を果たす上でも有効です。
蓄積されたデータは、事故防止や業務改善のためのPDCAサイクルにも活用できます。
介護現場で活用される主なICT機器
記録・情報共有システム
介護記録ソフトは、ケアプラン作成、日々の記録、介護保険請求までを一括管理できるシステムです。スマートフォンやタブレットから入力できるため、利用者のそばで記録を完結できます。
クラウド型システムなら、複数の事業所間でリアルタイムに情報共有が可能です。訪問介護と居宅介護支援事業所が同じシステムを使えば、ケアプランの変更も即座に反映されます。
音声入力機能がついたものを選べば、入力時間がさらに短縮されます。
見守り・安全管理機器
ベッドセンサーは、利用者の起き上がりや離床を検知してアラートを送信します。マットタイプ、シートタイプ、非接触センサーなど種類は多様です。
カメラ型システムは、居室の様子を映像で確認できるため、転倒の瞬間を記録してエビデンスとして残せます。プライバシーに配慮し、AI処理で人影のみを表示するタイプもあります。
排泄予測機器は、膀胱の状態を超音波で測定し、トイレのタイミングを通知します。おむつ交換回数が減り、利用者の尊厳保持にもつながります。
コミュニケーションツール
インカムやトランシーバーは、職員同士の即時連絡を可能にします。フロアが広い施設や、複数フロアを担当する場合に特に有効です。
ビジネスチャットツールは、グループ機能で情報を整理して共有できます。緊急度に応じてチャンネルを分けることで、重要な情報を見逃しません。
オンライン会議ツールは、多職種カンファレンスや遠隔での家族面会に活用されています。
業務管理システム
シフト作成ソフトは、職員の希望や法定労働時間を考慮して自動でシフトを組みます。従来Excelで数時間かかっていた作業が、数分で完了します。
勤怠管理システムは、タイムカードの打刻から給与計算まで連動します。年末調整の資料作成も自動化され、事務作業が大幅に削減されます。
送迎管理システムは、利用者の住所や車両の定員を考慮して最適なルートを提案します。運転手の負担軽減と燃料費削減につながります。
ICT導入を成功させる3ステップの実践方法
ステップ1:課題の明確化と優先順位づけ(所要時間:1〜2週間)
まず現場の職員にアンケートやヒアリングを実施し、何に最も困っているかを洗い出します。記録業務、夜勤負担、情報共有のいずれが最大の課題かを数値化しましょう。
たとえば「記録に1日平均何時間かかっているか」「申し送りミスが月に何回発生しているか」を集計します。複数の課題がある場合は、効果が出やすく投資額が小さいものから着手すると成功しやすくなります。
つまずきポイント:経営層の意向だけで決めると、現場で使われないICTになりがちです。必ず現場の声を反映させてください。
ステップ2:機器選定とデモ・トライアル実施(所要時間:1〜2ヶ月)
課題が明確になったら、複数のベンダーから資料を取り寄せます。価格だけでなく、操作性、サポート体制、既存システムとの連携性を比較検討しましょう。
多くのICT機器にはデモ期間やトライアル利用があるため、実際に現場で試してみます。この段階で職員の意見を集め、「使いやすさ」を最優先に選定します。
補助金を活用する場合は、事前に自治体の要件を確認してください。申請書類の準備には時間がかかるため、早めに動きましょう。
つまずきポイント:一度に全機能を導入すると混乱します。まず1フロアや1機能に絞って導入し、徐々に拡大する段階的アプローチが効果的です。
ステップ3:職員教育と定着サポート(所要時間:2〜3ヶ月)
導入決定後は、操作マニュアルを作成し、職員向けの研修を実施します。ITリテラシーが高い職員から教育を始め、その職員が他のメンバーに教える仕組みを作ると定着が早まります。
最初の1〜2週間は、ベンダーのサポート担当者に常駐してもらうか、定期的に訪問してもらうと安心です。小さなトラブルにも即座に対応できる体制を整えましょう。
導入後1ヶ月、3ヶ月の時点で効果測定を行い、業務時間やミス発生率の変化を数値化します。成果を職員と共有することで、継続的な利用意欲が高まります。
つまずきポイント:年配職員や機械が苦手な職員へのフォローを怠ると、一部の人しか使わないツールになります。個別サポートの時間を十分に確保してください。
ICT導入でよくある失敗例と対策
失敗例1:高額なシステムを導入したが使われない
最新の多機能システムを導入したものの、操作が複雑で職員が使いこなせず、結局紙の記録に戻ってしまうケースです。
対策:シンプルで直感的に操作できる製品を選びます。必要な機能だけに絞り、段階的に拡張していく方が成功率が高くなります。導入前のトライアルで、実際に使う職員の意見を必ず聞きましょう。
失敗例2:Wi-Fi環境が不十分で動作が不安定
タブレットやスマートフォンを導入したが、施設内のWi-Fiが弱く、記録の保存に時間がかかったり通信が切れたりする問題です。
対策:ICT機器導入前に、ネットワーク環境の整備が必須です。建物の構造や広さに応じて、アクセスポイントを適切に配置しましょう。通信速度の測定も事前に行ってください。
失敗例3:既存システムとの連携ができず二重入力が発生
新しい記録システムと既存の請求システムが連携せず、結局両方に入力する手間が増えてしまった事例です。
対策:導入時に既存システムとのデータ連携の可否を確認します。API連携やCSVエクスポート機能があるかをベンダーに問い合わせましょう。できれば記録から請求まで一括管理できるシステムを選ぶと効率的です。
介護現場特有のリスク
個人情報の取り扱いには十分な注意が必要です。クラウドシステムのセキュリティレベル、アクセス権限の設定、データのバックアップ体制を確認しましょう。
利用者や家族への説明も忘れずに行います。特にカメラ型の見守りシステムは、プライバシーへの配慮が求められます。同意書を取得し、録画データの管理ルールを明確にしてください。
システム障害時の対応手順も事前に決めておきます。完全にデジタル化すると、停電時やサーバーダウン時に業務が止まるリスクがあります。
よくある質問(FAQ)
Q1:ICT導入にはどれくらいの費用がかかりますか?
小規模な事業所でチャットツールから始める場合、月額数千円から可能です。記録システムや見守りセンサーを含む中規模導入では、初期費用50〜200万円、月額5〜15万円が目安となります。補助金を活用すれば、初期費用の50〜75%が補助されるケースもあります。
Q2:ITが苦手な職員でも使えますか?
最近のICT機器は、スマートフォン感覚で操作できるものが主流です。導入時の研修とマニュアル整備、そして困ったときのサポート体制があれば、多くの職員が使いこなせるようになります。実際、70代の職員がタブレット記録を活用している事例も多数あります。
Q3:小規模事業所でも導入する意味はありますか?
小規模だからこそ、少ない人数で効率的に運営する必要があります。チャットツールやクラウド型の記録システムなど、低コストで始められるICTから導入すれば、十分な効果が得られます。むしろ意思決定が早く、全員で使い方を統一しやすい利点があります。
Q4:補助金の申請は難しいですか?
各自治体が実施するICT導入支援事業では、申請書類の記入例や説明会が用意されています。ベンダーが申請サポートをしてくれる場合も多いため、初めてでも対応可能です。申請期限や要件は自治体ごとに異なるので、早めに確認しましょう。
Q5:導入後に効果が出るまでどれくらいかかりますか?
記録システムなら1〜2ヶ月、見守りシステムは3〜6ヶ月が目安です。職員が操作に慣れるまでの期間を考慮すると、本格的な効果実感は導入後3ヶ月以降となります。ただし段階的に改善が見られるため、途中で諦めずに継続することが重要です。
まとめ
介護ICTは、記録業務の効率化・情報共有の精度向上・夜勤負担の軽減という3つの効果をもたらします。
導入成功の鍵は、現場の課題を明確にすること、使いやすい機器を選ぶこと、職員教育を丁寧に行うことです。
まずは施設の最大の課題を1つ特定し、その解決に最適なICT機器の資料請求から始めてみてください。小さな一歩が、職員と利用者双方にとってより良い介護環境を作ります。

