「デジタル化したいが何から始めればよいか分からない」そう悩む施設は少なくありません。介護現場の多くが直面するのは、職員のスキル不足とDXノウハウの不足という2大課題です。
本記事では、介護分野で10年以上デジタル化を支援してきた経験をもとに、現場が直面する6つの課題と具体的な解決策を紹介します。実践的な3ステップの進め方を理解することで、明日から取り組める改善策が見つかります。
施設規模や予算に応じた段階的アプローチを解説するため、小規模事業所でも実践可能です。デジタル化への第一歩を踏み出しましょう。
介護DX推進で直面する6つの主要課題
そもそも介護DXとは何か
介護DXとは、AI・IoT・ICTといったデジタル技術を取り入れ、介護業務のワークフローを変革し、利用者と職員双方の満足度向上を目指す取り組みです。単なる機器導入ではなく、業務プロセス全体を見直す変革活動を指します。
たとえば紙の記録をタブレット入力に変えるだけでなく、蓄積したデータを分析して個別ケアプランを最適化するまでが含まれます。デジタル技術により職員が利用者と向き合う時間を増やし、サービスの質を高めることが本質的な目的です。
職員のITスキル不足と心理的抵抗
介護職員の年齢構成を見ると、40〜50代以上が半数を占める施設も多く、デジタル機器に不慣れな層が少なくありません。パソコン操作が苦手な職員にとって、新システムの導入は「仕事が増える」という不安につながります。
さらに効率化の効果を実感する前に拒否反応が起きてしまうケースが多く見られます。「今のやり方で十分」という意識が変革を妨げる大きな壁です。ベテラン職員ほど従来の紙ベース業務に慣れており、変化への抵抗が強い傾向があります。
初期投資とランニングコストの負担
デジタル技術導入には専用システムの費用に加え、ネットワーク環境の整備、パソコンやタブレット、ソフトウェアの購入費用がかかります。初期費用だけでなく、月額利用料や保守費用などのランニングコストも発生します。
中小規模の事業所では予算に余裕がなく、費用対効果が見えにくいため導入に二の足を踏むケースが少なくありません。特に複数事業所を運営する法人では、全拠点への展開を考えると投資額が膨大になります。長期的な収益改善効果を予測しても、目の前の資金繰りが優先される現実があります。
DX推進の具体的手順が不明確
介護業界では、法人内にデジタル技術やデータ活用に精通した人材が在籍していないケースがほとんどです。「何から始めればよいか」「どのシステムを選ぶべきか」といった基本的な疑問に答えられる人材がいません。
現場では「DX推進」という言葉だけが先行し、具体的なイメージが湧かない状態が続きます。業者から提案されるシステムの優劣を判断する知識もなく、導入後に「使いこなせない」「期待した効果が出ない」という失敗に陥りがちです。
根強く残る紙文化とアナログ業務
介護業界では、依然として紙による記録・申し送り・報告が多く残っています。「紙のほうが早い」「慣れたやり方が安心」という意識が変革を妨げます。
手書きの介護記録や押印が必要な書類、FAXでのやり取りなど、アナログ手法が業務フローに深く根付いています。
複数の帳票を手作業で転記する二度手間が発生しても、「今までこの方法でやってきた」という理由で変更されません。デジタル化のメリットを実感する機会がないまま、紙文化が継続される悪循環に陥っています。
経営層と現場の温度差
経営層は人手不足対策や効率化を重視してDX推進を決定しますが、現場職員は日々のケア業務に追われています。経営層がDX推進を進めていても、現場の各マネージャーが前向きに取り組んでくれなければ、その元で働くスタッフもついてきません。
トップダウンで決定されたシステム導入が現場の実情に合わず、使われないまま放置されるケースも見られます。導入目的や期待効果が十分に共有されないまま進めると、「経営陣の自己満足」と受け取られかねません。現場の声を聞かずに決めたシステムは定着しない傾向があります。
課題を克服する3ステップの実践手順
ステップ1:スモールスタートで効果を実証する(1〜3ヶ月)
最初から大規模投資をするのではなく、一部門や特定業務から始めましょう。たとえば申し送りだけをデジタル化する、1フロアのみでタブレット記録を試すなど、小さな範囲で検証します。
具体的には月額数万円程度のクラウド型記録システムを1ヶ月間試験導入し、記録時間がどれだけ削減されるかを計測します。成功体験を積み重ねることで、職員の不安が軽減され「これなら使える」という実感が生まれます。
失敗してもダメージが少ないため、PDCAサイクルを回しやすい利点があります。「いきなり全面導入」を避け、段階的に拡大する姿勢が成功の鍵です。
ステップ2:職員教育と目的共有を徹底する(3〜6ヶ月)
デジタル機器の操作方法だけでなく、「なぜDXが必要か」という目的を全職員に伝えます。利用者へのケア時間が増える、残業が減るなど、具体的なメリットを示すことが重要です。
研修は集合形式だけでなく、短時間の動画マニュアルを用意して繰り返し視聴できる環境を整えます。操作が苦手な職員には個別サポート担当を配置し、質問しやすい雰囲気を作りましょう。
マニュアルは専門用語を避け、画面キャプチャ付きで手順を示します。「分からないことは恥ずかしくない」という文化を醸成し、職員同士で教え合う仕組みを構築することで定着率が高まります。
ステップ3:データ活用で業務改善を可視化する(6ヶ月〜)
デジタル化により蓄積されたデータを分析し、業務改善につなげます。記録時間の推移、夜間巡回回数の変化、介護事故の発生頻度などを数値で把握しましょう。
たとえば見守りセンサー導入前後で夜勤者の歩数を比較すると、移動距離が30%削減されたというような具体的成果が見えてきます。このデータを職員と共有することで、DXの効果を実感でき、さらなる改善意欲が生まれます。
利用者ごとの生活リズムや体調変化のパターンも可視化され、個別ケアの質向上に直結します。データに基づく意思決定により、経験や勘に頼らない科学的な介護が実現します。
つまずきやすいポイントと対処法3選
システム選定ミス:現場に合わないツールを導入
高機能なシステムほど良いという思い込みは危険です。現場の業務フローを無視した選定は失敗の原因になります。
対処法は導入前に必ずトライアル期間を設け、実際の業務で使えるか検証することです。複数の職員に操作してもらい、「使いやすさ」「必要な機能の有無」「サポート体制」を確認します。
他施設の導入事例を参考にし、同規模・同業態の施設で成功しているシステムを選ぶと失敗リスクが下がります。
運用ルール未整備:誰がいつ入力するか不明確
システムを導入しても、運用ルールが曖昧だと定着しません。「紙とデジタル両方に記録」という二重管理に陥るケースもあります。
対処法は導入前に運用マニュアルを作成し、入力タイミング・担当者・確認フローを明確にすることです。「ケア実施後30分以内にタブレット入力」「夜勤帯は翌朝9時までに入力完了」など具体的な時間を設定します。
紙の使用を段階的に廃止するスケジュールも決めておきましょう。移行期間を2週間程度設け、その後は完全デジタル化すると決めることで、中途半端な状態を避けられます。
サポート体制不足:困ったときに誰も助けられない
システムトラブルや操作方法の疑問が生じたとき、すぐに解決できる体制がないと現場は混乱します。
対処法は施設内にITサポート担当者を1〜2名配置することです。外部ベンダーのサポートだけでなく、内部に「すぐ聞ける人」がいる安心感が重要です。簡単な質問は施設内で解決し、複雑な問題のみベンダーに連絡する階層構造を作ります。
週1回の定例ミーティングで困りごとを共有し、解決策をナレッジとして蓄積しましょう。同じ質問が繰り返される場合は、マニュアルを更新して情報を充実させます。
よくある質問(FAQ)
Q1: 小規模事業所でも介護DXは実現できますか?
A: 可能です。クラウド型の介護記録システムなら月額数万円から利用でき、初期投資を抑えられます。また国や自治体の補助金制度を活用すれば、導入費用の一部が助成されます。小さく始めて効果を確認しながら拡大する方法が現実的です。
Q2: 職員の反発にはどう対応すればよいですか?
A: まず反対の理由を丁寧に聞き取りましょう。不安の多くは「使いこなせない」という心理から来ています。簡単な操作から始め、成功体験を積み重ねることで抵抗感が薄れます。効果が出た事例を共有し、「自分たちのため」という認識を持ってもらうことが重要です。
Q3: DX推進に必要な期間はどのくらいですか?
A: 段階によりますが、最初の成果が見え始めるまで3〜6ヶ月が目安です。スモールスタートで1ヶ月、職員への浸透に2〜3ヶ月、効果測定に1〜2ヶ月が一般的なスケジュールです。焦らず着実に進めることが成功の秘訣です。
Q4: 補助金はどこで申請できますか?
A: 厚生労働省の介護DX推進関連補助金や、各自治体が独自に実施する助成制度があります。事業所所在地の自治体ホームページや、介護保険担当課に問い合わせることで最新情報が入手できます。申請期間が限定されているため、早めの情報収集が必要です。
Q5: 導入後に使われなくなることを防ぐには?
A: 定期的な効果測定と改善活動が不可欠です。月1回は利用状況をチェックし、使いにくい点を洗い出して改善します。また職員の意見を積極的に取り入れ、現場主導でカスタマイズする姿勢が定着を促します。経営層のコミットメントも重要で、トップ自らがシステムを使う姿勢を示すべきです。
まとめ
介護DXの課題は、職員のスキル不足・コスト負担・具体的手順の不明確さという3つに集約されます。これらを克服するには、スモールスタートで効果実証し、職員教育を徹底し、データで改善を可視化する3ステップが有効です。
最初は記録業務のデジタル化など小さな範囲から始め、成功体験を積み重ねましょう。職員の不安に寄り添いながら、「なぜ必要か」という目的を共有することが定着の鍵です。
明日からできる第一歩は、現場職員3名にヒアリングして困りごとを洗い出すことです。そこから優先順位をつけ、解決できそうな課題を1つ選んでデジタル化を試してみてください。小さな成功が大きな変革につながります。

