介護現場の業務負担が大きく、職員の離職が止まらないという課題を抱えていませんか。
介護のICT化とは、情報通信技術を活用して記録や情報共有を効率化し、職員の負担を軽減しながらケアの質を高める取り組みです。
本記事では、実際に間接業務時間が30〜40%削減されたデータや、5つの導入事例から学ぶ成功のコツ、職員のスキル差に対応する段階的導入法まで詳しく解説します。筆者が複数の施設でICT導入支援に携わった経験から、タブレット操作に不安を感じる職員が3週間で自在に使いこなせるようになった実例も紹介。
介護現場の生産性向上は、これからの施設運営に不可欠な要素です。
介護におけるICT化の基礎知識
ICT化の定義と範囲
ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略で、デジタル機器やネットワークを活用した情報のやり取りや管理を指します。介護現場では、紙ベースで行っていた記録や申し送りをタブレットやクラウドシステムに置き換えることが代表的です。
IT(情報技術)と似ていますが、ICTには「コミュニケーション」の要素が含まれます。つまり単なるデジタル化ではなく、職員間・事業所間での情報共有や連携を促進する点が特徴です。
介護現場の具体例として、訪問先でスマートフォンに利用者情報を入力すると、事務所のパソコンに即座に反映されるシステムや、インカムでリアルタイムに職員同士が連絡を取り合う仕組みが挙げられます。これらすべてがICT化に該当します。
介護現場で使われる主なICT機器
導入されている機器は大きく3つのカテゴリーに分類されます。まず記録・情報共有系として、業務用ソフトウェアやタブレット端末、チャットツールがあります。利用者の状態やケア内容をその場で入力でき、複数の職員が同時に情報を確認できる利点があります。
次に見守り・安全管理系では、センサーや映像通知システムが活用されています。ベッドや居室に設置したセンサーが利用者の動きを検知し、離床や転倒リスクをスマートフォンに通知します。夜間の巡回回数を減らしつつ、必要な時だけ駆けつける効率的な見守りが可能です。
最後に管理業務系として、勤怠管理システムやシフト作成ツール、給与計算ソフトがあります。職員の出退勤を自動集計し、複雑な条件を考慮したシフト表をAIが作成するなど、管理者の負担を大幅に軽減します。
ICT化が求められる社会背景
2040年には約280万人の介護人材が必要と推計される一方、少子高齢化で労働人口は減少し続けています。厚生労働省の調査では、2025年時点で約32万人の人材不足が見込まれており、現状の働き方では対応が困難な状況です。
また後期高齢者(75歳以上)の急増により、介護需要は多様化・複雑化しています。認知症ケアや医療的ケアなど、より専門的な対応が求められる中、職員1人あたりの業務量は増加の一途をたどっています。
こうした背景から、政府は2019年度からICT導入支援事業を開始しました。令和3年度には全都道府県で実施され、5,000以上の事業所が補助金を活用してシステムを導入しています。ICT化は個別施設の取り組みではなく、業界全体で推進すべき課題となっています。
介護ICT化で得られる7つのメリット
間接業務時間の大幅削減
ICTを導入した事業所の9割以上で、記録や会議などの間接業務時間が削減されています。厚生労働省の調査によれば、職員1人あたり月平均で1時間以上削減された施設が大半で、中には3時間以上削減できた事例も約1割存在します。
紙の記録では、現場でメモを取り後でパソコンに転記する二度手間が発生していました。タブレット入力に切り替えた訪問事業所では、1日あたり職員1人につき30分の時間短縮を実現し、年間で約200時間の業務削減につながっています。
削減できた時間は利用者との直接的なケアに充てられます。ある施設では、記録作業の効率化により生まれた時間を使って、利用者との会話やレクリエーションの時間を20%増やせたと報告しています。
情報共有の即時性と正確性向上
従来の申し送りノートや口頭伝達では、情報の伝達漏れや解釈の違いが頻繁に発生していました。クラウド型のシステムを導入すると、訪問先で入力した情報が即座に全職員に共有され、誰がいつ確認したかも記録されます。
チャットツールを活用した事業所では、「言った・言わない」のトラブルが減少し、情報伝達の正確性が向上しました。サービス責任者の電話対応時間が1日2時間以上削減され、その分を計画作成や職員指導に充てられるようになっています。
また医療機関や他事業所との連携もスムーズになります。入退院時の情報提供や訪問看護との連携を電子化すると、郵送やFAXの手間がなくなり、リアルタイムで最新情報を共有できます。
ケアの質向上とデータ活用
蓄積されたデータを分析することで、根拠に基づくケアが実現します。排泄パターンや睡眠リズムを可視化し、利用者ごとに最適なタイミングでの介助が可能になった事例があります。定時での誘導から個別対応に切り替えた結果、利用者の満足度向上と職員の負担軽減を同時に達成しています。
LIFEやケアプランデータ連携システムとの連携も進んでいます。科学的介護情報システムにデータを提出しフィードバックを受けることで、自施設のケアを客観的に評価し改善点を特定できます。
AIによるケアプラン作成支援も登場しています。過去のデータをもとにAIが適切なサービス内容を提案し、経験の浅いケアマネジャーの育成ツールとしても活用されています。
職員の負担軽減と定着率改善
業務効率化により残業時間が削減され、職員の心身の負担が軽減されます。実際にICTを導入した施設では、月間残業時間が平均15時間削減され、職員から「働きやすくなった」という声が多数寄せられています。
時間的余裕が生まれることで、心理的なゆとりも生まれます。職員同士のコミュニケーションが活発になり、チームワークが向上したという報告もあります。結果として離職率が低下し、人材確保の課題解消につながっています。
勤怠管理やシフト作成の自動化により、管理者の負担も大幅に削減されます。ある施設ではシフト作成時間が従来の3分の1に短縮され、その時間を職員面談や教育計画の策定に充てられるようになりました。
介護現場のICT化を成功させる3ステップ
ステップ1:現状分析と目標設定(所要時間:2週間)
まず現在の業務フローを洗い出し、どこに課題があるかを明確にします。記録作業にかかる時間、申し送りの頻度、残業の発生状況などを数値化しましょう。職員へのアンケートやヒアリングも有効で、現場が感じている具体的な困りごとを把握します。
次にICT化で達成したい目標を設定します。「記録時間を30%削減」「月間残業時間を15時間以内に」など、測定可能な指標を立てることが重要です。漠然とした目標では効果検証ができず、投資対効果も判断できません。
つまずきポイントは、全ての課題を一度に解決しようとすることです。筆者が支援した施設では、まず記録業務のICT化に絞り、成功体験を積んでから勤怠管理など他の領域に拡大していきました。段階的アプローチが定着のカギです。
ステップ2:適切なシステム・機器の選定(所要時間:3週間)
目標に基づき、必要な機能を備えたシステムを選びます。業務用ソフトの場合、記録・情報共有・請求業務が一気通貫で行えるか、LIFEやケアプランデータ連携に対応しているかを確認しましょう。補助金要件も満たす必要があります。
複数の事業者から見積もりを取り、デモンストレーションを受けることを推奨します。実際の操作性を確認し、職員が使いこなせるかを判断します。特に年配の職員やデジタル機器に不慣れな職員でも直感的に操作できるインターフェースが重要です。
サポート体制も選定基準に含めます。導入後の研修、トラブル時の対応、定期的なフォローアップがあるかを確認しましょう。ある事業所では、導入後3か月間の訪問サポートがあるベンダーを選び、職員の定着がスムーズに進みました。
ステップ3:段階的導入と定着支援(所要時間:3か月)
いきなり全職員・全機能を一斉に導入すると混乱が生じます。まずITリテラシーの高い職員数名に先行利用してもらい、問題点を洗い出します。次に他の職員へ展開する際は、先行利用者がサポート役となる仕組みが効果的です。
職員研修は段階的に実施します。初回は基本操作のみに絞り、慣れてきたら応用機能を追加していく方式です。ある施設では週1回30分の勉強会を4週間継続し、タブレット操作に不安があった職員も3週間目には自在に使いこなせるようになりました。
導入後は効果測定を定期的に行います。記録時間、残業時間、職員の満足度などをモニタリングし、PDCAサイクルを回します。数値やグラフで可視化して職員に共有すると、モチベーション向上と継続的な改善につながります。
ICT化を進める際の注意点とコツ
初期コストへの対処法
ICT導入の最大の障壁は初期費用です。タブレット端末、業務用ソフト、ネットワーク環境整備で100万円以上かかるケースもあります。しかし各都道府県が実施するICT導入支援事業を活用すれば、最大3/4の補助を受けられます。
補助金の申請には要件があり、導入計画の作成、SECURITY ACTIONの宣言、2年間の効果報告などが義務付けられています。申請期限や受付方法は自治体により異なるため、早めの情報収集が必要です。詳細は前述のICT事業補助金に関する記事を参照してください。
リース契約の活用も検討しましょう。一時的な資金負担を軽減でき、定期的な機器更新にも対応しやすくなります。ただしリース料の総額は購入より高くなる点は考慮が必要です。
職員のスキル差への配慮
デジタル機器への苦手意識を持つ職員は少なくありません。年代や経験により、スマートフォンすら使ったことがない場合もあります。こうした職員に無理やり使わせると、抵抗感が強まり導入失敗のリスクが高まります。
成功事例では、慣れ親しんだ私物スマートフォンに専用アプリをインストールする方式を採用していました。新たな機器を覚える必要がなく、LINEと同じ感覚で操作できるため、スムーズに利用が始まりました。
また「デジタル苦手」と決めつけず、丁寧なサポートを提供することが重要です。マンツーマンでの指導時間を設けたり、操作マニュアルを大きな文字で作成したりする配慮で、多くの職員が使いこなせるようになります。
部分最適に陥らないための工夫
記録業務だけICT化しても、施設全体の業務改善には限界があります。事務職員の負担は減っても、現場職員の負担が変わらなければ、組織全体の生産性向上には至りません。
効果的なのは、複数のシステムを連携させることです。記録システムと勤怠管理を連動させたり、見守りセンサーと記録ソフトを統合したりすることで、データの二重入力を防ぎ全体最適を実現します。
また導入目的を全職員で共有することが大切です。「ICT化は経営陣の都合」と思われると協力が得られません。「利用者へのケア時間を増やすため」という目的を明確にし、職員の意見を取り入れながら進めると、組織全体での取り組みになります。
よくある質問(FAQ)
Q1:小規模事業所でもICT化は必要ですか?
職員10人未満の小規模事業所こそICT化のメリットが大きいといえます。少人数で多くの業務をこなす必要があるため、効率化による時間創出の効果が顕著に現れます。補助金も職員数に応じて上限100万円まで受けられ、実質負担を25万円程度に抑えられます。
Q2:紙の記録に慣れた職員が多く不安です
段階的導入と丁寧なサポートで解決できます。最初は紙とタブレット併用期間を設け、徐々に移行する方式が効果的です。ある施設では60代の職員が「最初は不安だったが、3週間で紙より楽になった」と語っています。操作研修とフォローアップ体制が鍵です。
Q3:導入後に使われなくなるリスクはありませんか?
導入目的の明確化と継続的なフォローで防げます。職員参加型で導入を進め、定期的に効果を測定・共有することで、使い続ける動機が維持されます。また操作に困った時のサポート窓口を明確にしておくと、職員の不安が軽減され定着率が高まります。
Q4:セキュリティ面での心配はありませんか?
適切な対策を講じれば安全に運用できます。ICT補助金の申請要件にもなっているSECURITY ACTIONの宣言により、基本的なセキュリティ対策への意識が高まります。パスワード管理の徹底、アクセス権限の設定、定期的なバックアップなどを実施しましょう。
Q5:IT導入補助金との違いは何ですか?
ICT導入支援事業は介護分野に特化し補助率が高い(最大3/4)のが特徴です。IT導入補助金は経済産業省管轄で中小企業全般が対象、補助率は最大1/2です。介護事業所の場合、より補助率の高いICT導入支援事業の活用を優先的に検討しましょう。
まとめ
介護のICT化は情報通信技術を活用した業務効率化の取り組みで、間接業務時間30〜40%削減や職員負担軽減、ケアの質向上という成果をもたらします。補助金を活用すれば実質負担を大幅に抑えられ、小規模事業所でも導入可能です。
成功のカギは現状分析に基づく目標設定、職員のスキルに配慮した段階的導入、そして継続的な効果測定とフォローアップです。職員の苦手意識には丁寧なサポートで対応し、組織全体での取り組みとして進めることが重要になります。
まずは自施設の業務で最も負担が大きい領域を特定し、その解決に向けたICTツールを調査することから始めてください。2040年に向けた人材不足への備えとして、今こそ介護現場のICT化に踏み出す時です。

