介護施設の記録業務は職員の月間労働時間の35~40%を占めており、多くの施設がこの負担軽減を課題としています。ICT導入により、記録業務を76%削減し、職員を直接介護に充てられます。
本記事では、特別養護老人ホーム・老健施設・有料老人ホームなど施設タイプ別のICT導入戦略、厚生労働省推奨の7ステップ実装プロセス、そして全職員が安心して使えるようになるための「職員スキル別対応」まで、競合記事では説明されていない実践的なロードマップをお届けします。
介護施設におけるICT導入の背景と重要性
施設職員の業務負担の現実
介護施設の職員は、利用者のケア業務に加え、介護記録・ケアプラン作成・シフト管理・請求業務など、多くの事務作業を担います。厚生労働省の「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」によると、施設職員の月間労働時間の35~40%が事務作業に費やされています。
つまり、月間160時間の勤務のうち、56~64時間が事務業務に充てられ、本来の利用者ケアに充てられるべき時間が圧迫されているのです。
2025年問題と人材不足: 厚生労働省は団塊の世代が75歳以上になる2025年に、32~34万人の介護人材不足が生じると予測しています。この人材不足を補うため、「限られた職員で最大の成果を生み出す」ことが、施設経営の生き残り条件になりました。
介護施設ICT導入のメリット5つ
1. 記録業務を76%削減で利用者ケア時間を倍増
多くの施設が紙またはExcelで記録していたものをタブレットで直接入力化すると、記録にかかる時間が大幅に削減されます。ある特別養護老人ホームでは、記録業務を月40時間→月9時間に削減。削減された31時間を利用者ケア・レクリエーション充実に充当し、利用者満足度が向上しました。
2. 情報共有がスムーズで事故が年間60%削減
紙ベースでは「申し送りが次のシフトに伝わらない」ことがあります。デジタル化で全職員が同じ情報を共有でき、誤った対応が減少。見守りセンサーと組み合わせると、転倒・転落事故が年間60%削減された施設も報告されています。
3. 夜勤職員の心身負担が30%軽減
夜間に全室巡回している施設では、職員の身体負担が極めて大きい。見守りセンサーで「異常時のみ訪室」へシフトすると、夜勤職員の訪室回数を月350回→月120回に削減。夜間の精神的・肉体的負担が大幅に軽減されます。
4. 令和6年度加算で月10万円以上の経営収益向上
生産性向上推進体制加算などが新設され、ICT導入による業務改善を数値で示す施設が加算対象に。月10~15万円の加算収入が期待でき、初期投資を12~18ヶ月で回収できます。
5. 職員定着率向上で採用コスト削減
業務負担が減ると、職員の仕事満足度が上がり、離職率が低下。採用・育成にかかる年間300~500万円のコストを削減できます。
施設タイプ別ICT導入戦略
特別養護老人ホーム向け戦略
24時間体制の運営で、夜勤業務の負担軽減が最優先課題です。見守りセンサー→介護ソフト→シフト管理システムの優先順で導入することをお勧めします。複数フロアがあれば、1フロアから試験運用を開始し、効果確認後に全館展開する段階的アプローチが有効です。
老健施設向け戦略
リハビリ・医療連携が特徴のため、医療機関との情報共有機能が重要。介護ソフト選定時に「医療機関との連携機能」「リハビリ進捗の可視化機能」が搭載されているか確認しましょう。また、リハビリ職と介護職の情報共有が円滑になることで、ケア品質が向上します。
有料老人ホーム向け戦略
利用者の経済状況が比較的安定している特徴があるため、より高度なサービス提供が期待されます。AI・データ分析を活用した「個別ケアの最適化」「利用者満足度の向上」に力を入れることで、新規入居者の獲得につながります。
厚生労働省推奨7ステップICT導入プロセス
ステップ1: ICT導入計画の策定(2~4週間)
まず「何を改善するのか」を数値で明確にします。現在の記録業務時間、事故件数、職員の残業時間などを基準値として記録。導入後、3ヶ月・6ヶ月・1年で比較できるようにしましょう。所要時間は2~4週間、難易度は低~中です。
つまずきポイントは「現状把握に手間がかかる」こと。全職員にアンケート、実際に業務時間を測定するなど、正確なデータ集約に3~4週間を要することは珍しくありません。
ステップ2: 導入するICT機器・ソフトの検討(3~6週間)
「見守りセンサーが必要か」「介護ソフトだけで足りるか」を判断する段階です。複数のベンダーからデモを受け、「実際に職員が使いやすいか」を確認します。所要時間は3~6週間、難易度は中程度です。
つまずきポイントは「ベンダー選定に時間がかかる」こと。3~4社に絞り、各社のデモを実施。その後、全職員投票で「一番使いやすそう」と評価されたシステムを選ぶ方式が有効です。
ステップ3: 業務フローの見直し(2~4週間)
現在の業務フローを図化し、「ここでICTを導入するとどう変わるか」をシミュレーション。新しい業務フローをマニュアル化します。所要時間は2~4週間で、難易度は中程度です。
つまずきポイントは「現場と経営層の意見の相違」です。経営層は「理想の業務フロー」を想定しがちですが、現場職員は「実現可能なフロー」を求めます。両者の意見をすり合わせることが重要です。
ステップ4: 導入体制の構築(2~3週間)
導入責任者の選定、職員研修体制の整備、トラブル発生時の相談窓口設置などを進めます。所要時間は2~3週間で、難易度は低~中です。
つまずきポイントは「責任の所在が不明確」なこと。導入責任者を明確に決め、その人に権限を集中させることが大切です。
ステップ5: 試験運用(4~12週間)
1フロア、または1シフトから開始し、実際にシステムを使ってみます。所要時間は4~12週間で、難易度は高めです。
試験運用中は「週1回のチェック会議」を実施し、「うまくいったこと」「困っていること」を全職員から吸い上げます。改善案があれば即座に実装することで、職員の利用定着が進みます。
ステップ6: 全面導入(2~4週間)
試験運用で成功した方法を、全フロア・全シフトに展開します。所要時間は2~4週間で、難易度は中程度です。
新人職員や異動職員向けに「ICT導入研修」を継続実施することが重要です。
ステップ7: 効果測定と継続改善(継続)
導入から3ヶ月・6ヶ月・1年のタイミングで、導入前後の数値を比較。「記録時間の削減」「事故件数の減少」「職員満足度」などを全職員と共有します。
継続的な改善により、さらなる効率化が期待できます。
ATAT(アセスティブテクノロジー評価ツール)による導入リスク評価
厚生労働省が推奨する「ATAT」は、ICT導入時のリスクを事前評価するツールです。導入が「職員」「利用者」「経営」「時間・予算」に与える影響を4軸で分析し、すべての関係者が満足できる導入かどうかを検証します。
例えば、見守りセンサー導入では「利用者のプライバシー保護」「職員の不安感払拭」「初期投資の回収見通し」などを事前評価し、導入後の問題を予防します。
よくある質問(FAQ)
Q1: 高齢職員が多い施設では、ICT導入は難しいのか?
A: 難しくありません。むしろ高齢職員こそ、業務負担軽減で最も利益を得られます。ポイントは「段階的な研修」です。①操作概要の説明、②実機を使った練習、③個別サポート(1対1で30分)を確保すれば、1ヶ月で使いこなせるようになります。
Q2: ICT導入で、職員とコミュニケーションの時間が減るのでは?
A: むしろ増えます。事務業務が削減されるため、職員間の対面コミュニケーション時間が増加。またデジタルツール(チャット・インカム)により、「素早く・正確な」情報共有ができるようになり、職場の雰囲気が向上した施設が多いです。
Q3: 導入後、「やっぱり紙に戻したい」という職員が出たら?
A: その職員の理由を聞くことが重要です。「操作が難しい」なら追加研修、「システムが遅い」なら通信環境改善、「入力項目が多い」なら簡潔化を検討します。全面撤廃ではなく、改善を通じた対応が原則です。
Q4: 介護ソフト導入だけでなく、見守りセンサーも同時に導入すべきか?
A: 導入順序は施設課題で異なります。「記録業務が課題」なら介護ソフト優先、「夜勤負担が課題」なら見守りセンサー優先です。同時導入すると職員の対応が追いつかず、逆に業務が混乱することもあります。6~12ヶ月かけての段階的導入が現実的です。
Q5: 導入後の補助金返納リスクはあるのか?
A: 補助金によって異なります。厚労省のICT導入支援事業では、導入後「導入効果報告」を3年間提出する義務があります。報告を怠ると補助金返納を求められる可能性があるため、導入計画時から「効果測定スケジュール」を組み込むことが重要です。
まとめ
介護施設のICT導入は、「導入するシステム」ではなく、厚労省7ステップに基づいた組織全体の改革です。施設タイプ別の戦略、ATAT評価による事前リスク評価、そして職員スキル別の丁寧な研修が、成功の三要素です。
記録業務を76%削減し、職員を直接介護に充てることで、利用者ケアの質が向上し、職員定着率も改善されます。今月中に自治体の「ICT導入支援窓口」に相談し、自施設の導入計画を具体化することをお勧めします。

