介護業界の人手不足は、複合的な対策によって段階的に改善できます。2025年度に約32万人の職員不足が予測される中、重要なのは「何をするか」ではなく「何から始めるか」です。本記事では、事業所が即座に着手できる対策から、中期的に実装する施策まで、段階別の8つの解決策と、具体的な実行ロードマップを解説します。
介護の人手不足解消が必須になった背景
猶予期間がない現実
2025年4月、団塊世代が後期高齢者となり、要介護者は約50万人増加します。同時に、介護職員の不足は約32万人に達する予測です。
有効求人倍率が3.88倍である現状では、従来の採用活動では対応不可能です。採用と定着の両面で、抜本的な対策が急務です。事業所が今から対策を始めなければ、2025年の需要増に対応できず、成長機会を失うだけでなく、既存利用者へのサービス提供も困難になります。
解決策が存在する事実
人手不足は深刻ですが、打つべき手は存在します。定着強化、業務効率化、採用戦略の多元化により、3年で確実な改善が期待できます。重要なのは「段階的な実装」です。全て一度に実行することは不可能ですが、優先度別に進めることで、経営資源を最適化しながら改善が実現できます。
人手不足解消に向けた3つの基本軸
軸1:「定着」——現職員が辞めない環境整備
採用より定着が効果的です。新人採用1人に50〜150万円の費用がかかる一方、離職防止は1/3以下のコストで済みます。
給与改善、人間関係改善、労働環境改善の3つを並行実施することで、職員の満足度が向上し、自社の評判も高まり、採用活動も有利になる相乗効果が生じます。
軸2:「効率化」——限定的な人数で質の高いサービスを維持
人材の母数が減少する現状では、「いかに少ない人数で質を保つか」が課題です。IT化(記録電子化、シフト管理システム)と介助機器(見守りセンサー、移乗補助ロボット)により、業務負担を30〜40%削減できます。
削減した時間を利用者ケアに充てることで、サービス品質を保ちながら人員を適正化できます。
軸3:「採用」——多元的な人材源の開拓
採用活動の方法を多様化します。大手求人媒体のみから介護特化型への移行、外国人材受け入れ、離職者再雇用、広域採用など、複合戦略により採用母数を拡大します。
単一の採用チャネルに頼る時代は終わり、複数の施策を並行実施する企業と、それをしない企業の間で格差が生じています。
即座に着手できる3つの対策(第1段階:1ヶ月以内)
対策1:職員面談の定期化(難易度:低 費用:ほぼ無料)
現職員の離職理由を詳しくヒアリングします。管理職と全職員の個別面談を月1回以上実施し、「何が不満か」「何があれば続けたいか」を把握します。
聞き出した内容から優先度の高い改善施策を特定できます。このプロセスなしに対策を立てると、見当外れな施策に資源を費やすことになります。
対策2:相談窓口の設置(難易度:低 費用:月5万〜10万円)
ハラスメント相談窓口を設置します。職場の人間関係トラブルが離職理由の約1/3を占めるため、問題の早期発見と対処が重要です。
外部の相談窓口(労務相談サービス)を利用すれば、小規模施設でも導入できます。職員が「相談しやすい環境」が存在するだけで、離職意思が弱まる事例も多いです。
対策3:処遇改善加算の最大活用(難易度:中 費用:施設への給付増加)
介護職員処遇改善加算制度を最大限活用し、給与原資を確保します。条件を満たす施設であれば、介護保険から補填を受けられます。
給与改善は必須ですが、加算制度の活用により、施設の自己資金負担を最小化できます。地域の福祉事務所に相談し、自施設の適用状況を確認することから始めます。
3ヶ月で効果が出る3つの対策(第2段階:3ヶ月以内)
対策4:業務効率化の初期段階(難易度:中 費用:月3万〜10万円)
介護記録の電子化とシフト管理システムの導入で、月10〜15時間の業務削減が期待できます。
導入時は現場の混乱が避けられないため、段階的に進めます。最初は現場から要望の多い業務1つから始め、2週間で定着してから次に進む方式が効果的です。無理に一括導入すると、現場の抵抗で失敗します。
対策5:ユニットケアへの転換検討(難易度:高 費用:改築費用が大きい場合と無料の場合がある)
施設の運営形態をユニットケア(小規模チーム化)に転換します。利用者10名程度を1ユニットとし、決まったスタッフがケアする方式です。
人間関係が改善しやすく、風通しがよくなり、職員の連帯感が高まります。導入には時間がかかりますが、中期的には職員定着率の向上が見込めます。
対策6:採用媒体の多元化(難易度:低 費用:月5万〜30万円)
大手求人サイトのみから、介護特化型求人媒体へのシフトを進めます。母数が異なり、介護特化型では「施設の特徴」が伝わりやすいため、ミスマッチが減少します。
複数の媒体に登録し、応募数の推移を3ヶ月で測定。成果の低い媒体は削除し、成果の高い媒体に集約する方式で、採用効率を向上させます。
中期的に実装する2つの施策(第3段階:6ヶ月〜1年)
対策7:外国人材受け入れ体制の整備(難易度:高 費用:100万〜200万円)
特定技能ビザを活用した外国人材受け入れを計画的に進めます。受け入れから安定運用まで6ヶ月〜1年要するため、2026年度からの需要増に対応するには、今から着手が必須です。
複数施設での共同受け入れにより、費用と育成の負担を分散できます。地域の複数事業所と協力し、受け入れ機関の利用や日本語研修の共同開催も検討します。
対策8:経営状態改善による給与ベースアップ(難易度:高 費用:年間給与増加費用)
対策1〜7により業務効率化と定着強化が進めば、採算が改善します。その改善分を給与ベースアップに充当し、給与競争力を高めます。
給与改善は「同時実装」ではなく「段階実装」が鍵です。先に定着強化と効率化で基盤を整え、その成果を給与改善に充当する方式により、無理のない経営運営が実現します。
実装で失敗しやすいパターン
失敗1:優先度無視で全て一度に進める
9つの対策を同時実行すると、現場が混乱し、どの対策も中途半端に終わります。対策の導入も定着も失敗し、現職員の疲弊だけが進みます。
対処法:段階別に進める。第1段階で3対策を1ヶ月で完了させ、第2段階へ進むという方式で、確実な定着を優先します。
失敗2:採用に注力して既存職員が疲弊する
新人教育に時間をかけ、既存職員の負担が増すと、教えた側が先に離職する現象が起こります。採用ペースと教育体制のバランスが取れていない場合です。
対処法:新人採用の前に、対策4の効率化で既存職員の負担を減らす。その後、余裕が生まれてから新人採用を進める順序が重要です。
失敗3:施設規模に合わない施策を選択する
小規模施設が大規模施設向けの施策(複雑なシステム導入など)を選ぶと、運用に失敗します。小規模ほどシンプルな施策から始めることが重要です。
対処法:まず職員面談で自施設の課題を特定し、それに合った施策を選択。小規模施設は「シンプル」「スピード」「継続性」を重視した施策設計が有効です。
よくある質問(FAQ)
Q1:小規模訪問介護事業所では、どの対策から始めるべきですか?
A:対策1の職員面談から始めてください。職員5人の小規模施設では、1人の離職防止が経営を左右します。面談で課題を把握した上で、優先度の高い改善に注力する。その後、対策2の相談窓口設置、対策6の採用媒体多元化に進むのが現実的です。
Q2:処遇改善加算を活用した場合、給与は何円上がりますか?
A:加算率により異なりますが、月5万〜10万円の上乗せが一般的です。詳細は地域の福祉事務所に相談し、自施設の条件下での試算を依頼してください。加算を最大化することで、他施設との給与競争で優位に立つことが可能です。
Q3:介護記録の電子化で、本当に業務時間は削減されますか?
A:平均で月10〜20時間の削減が報告されています。ただし、導入初期は入力方法の学習に時間がかかるため、3ヶ月の定着期間を見込むことが重要です。導入後の効果測定も忘れずに。
Q4:外国人材受け入れが失敗する事例は何が原因ですか?
A:言語サポート不足、受け入れ前の職場文化理解不足、チューター制度の不整備が多い原因です。受け入れ後6ヶ月間は継続的なサポートが必須です。複数施設で共同受け入れすると、サポート体制が充実しやすいです。
Q5:人手不足解消には何年かかりますか?
A:段階実装により、3年で確実な改善が期待できます。定着強化(1年)→効率化成果の最大化(2年目)→採用増加と給与改善(3年目)という流れが標準的です。完全解決ではなく「慢性的な人手不足から脱却」を目指します。
まとめ
介護の人手不足は複合的な問題ですが、段階的な対策により改善できます。重要なのは「全て一度に」ではなく「優先度別に段階的に」実装することです。
即座に着手できる3つの対策で現状把握と小さな改善を始め、3ヶ月で効果が出る施策で基盤を整え、中期的に採用戦略と給与改善を進める——このロードマップにより、2025年の需要増に対応できる体制を構築できます。
自施設の規模と経営状態に合わせ、実現可能な対策から着手してください。人手不足は解決可能な課題です。

